わたしを支えてくれた音楽 ２
入院中、フリッツ・ヴンダーリヒの次によく聞いたのが、マーラーの交響曲5番のアダージェット。こんなふうに全体の一部だけ取り出して聞くことはあまりしないのだけれど、全部聞こうとするとちょっと長くて集中が続かず居眠りをしてしまうので、ちょっと「ずる」をした。そう言えば、本を読もうという気になったのは4月20日を過ぎてからのこと。交響曲を通して聞くことができるようになったのもそのころからのことで、何事であれ集中できるようになるのに2ヶ月ほどかかったわけだ。
聞いていたのはジュセッペ・シノーポリの指揮によるもの。手元にあるのがこの人の指揮によるものとバーンスタインがアダージェットだけ録音しているもので、バーンスタインもいいのだけれど、オーケストラの音がちょっとゾリゾリしているのでもっぱらシノーポリを聞いている。入院中に何度も聞いて、『ここのところはどんなふうに振っているのかな』と細かいところに耳を澄ませてみると、どのような細部においてもきめ細かく音を作っているところが好きで、ほかの指揮者が振ったいい演奏もあるのだろうけれども、あえてそれを探すことをしていない。
マーラーは交響曲の一部に、歌曲が響くことがあるのだけれど、このアダージェットには「わたしはこの世に見捨てられ」の後奏の弦が緩やかに降りてくる部分が、アダージェットでも最後に現れる。この歌曲が好きだったことも、アダージェットが好きになった一因かもしれない。まあそんなことには関係なく、この曲は美しいから好きな人は多いだろうと思う。
夜中に目が覚めてしまったときに聞くには少し長いので、この曲はもっぱら昼間時間があるときに聞いていたのだが、時間はやたらとあった。時間が長い分だけ、慰められる時間も長かったということか。
（2010年5月3日）
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