本日はただいまお読みいたしましたルカによる福音書、第3章15節以下の物語から、ご一緒に考えてまいりたいと思います。本日の個所は中ほどの17節から20節までが省略されておりまして、その前と後に分けて考えることができます。前の部分は洗礼者ヨハネとイエスさまの比較が行われております。福音書が書かれた当時、今から二千年ほど前の時代には、洗礼者ヨハネとイエスさまのどちらがメシアか、ということが問題になっていたことの名残かもしれないのですが、今の時代になってみればイエスさまがメシアであったということは、問題にもならないようなことになってしまいましたので、今回ここは取り扱いません。
今日は後半の部分、イエスさまが洗礼を受けたときのできごとに絞って考えてまいりましょう。よく読むとここでは、だれがイエスさまに洗礼を授けたのかということが記されていないのですが、16節のヨハネの言葉の中に「わたしはあなたがたに水で洗礼を授ける」という言葉が出てまいりますので、イエスさまに洗礼を授けたのは洗礼者ヨハネと考えていいでしょう。ルカはこのあたりに関して、きわめてぶっきらぼうに書いておりまして、イエスさまがどこで、だれから、どのように洗礼を施されたのかを、まったく明らかにしておりません。まるでイエスさまの洗礼について関心がないかのような書き方をしております。しかしイエスさまが洗礼を受けた後に起こったことは、しっかりと書きとめております。三つのことが起こります。まず「天が開き」、そこから「聖霊が降って」来ます。そして「天からの声」が、すなわち神の声が響きます。これら三つのことが示すのは、イエスさまが活動に先立って受けられた洗礼は、すべて神の導きによってなされたということです。イエスさまとともに洗礼を受けた他の多くの人たちには起こらなかったことが、イエスさまの身の上には起こっているからです。
ところでイエスさまは洗礼を受ける必要があったのでしょうか。ルカによる福音書の前の方を読みますと、ヨハネが人々にどのような意味を持つ洗礼を勧めていたかということが記されているのですが、そこには次のようにあります。「罪の赦しを得させるための悔い改めの洗礼」、それをヨハネは宣べ伝えていたとあります。ここで問題となるのはイエスさまが、何か悔い改めなければならないような罪を犯しただろうかということです。そんなはずはありませんね。イエスさまが若気の至りで何か過ちを犯していたなどということはありません。
であるならば、なぜイエスさまは大勢の民衆の中に混じって順番を待ち、洗礼をお受けになったのでしょうか。イエスさまがそれほどまでにわたしたちの生活の中に入り込んでいることを示す一つの例なのだと、わたしは考えております。わたしたちの弱さ、日々の生活の中にある苦しさを知ろうとして、わたしたちと同じ高さ、というよりも同じ低さに立ってくださる方なのだということを表現するために、イエスさまもまたみんなと同じように洗礼をお受けになったと記されているのだと、わたしは考えます。
洗礼を受けた直後に不思議な出来事が立て続けに起こるのですが、そのときイエスさまが何をしておられたかに注目してみましょう。そのときイエスさまは「祈っておられ」た、と書かれております。イエスさまは神の子どもであると考えられておりますので、そのような立場にある存在にとって、祈ることがなお必要とされるのかという疑問を持たれる方もあることでしょう。ルカによる福音書にはイエスさまが祈る場面が多く登場いたします。そのことからわかることは、イエスさまのような存在であっても、なお神に祈ることが必要であったということです。あるときには人里離れた場所でたった一人で、またあるときには弟子たちの存在を近くに感じながら、そのようにして何回も祈ったイエスさまでありました。俗なる世界のまっただ中に身を置きながら、神の支配される聖なる世界へと人々を導くのがイエスさまの務めです。それはだれにも理解されることのない困難な、きわめて困難な活動でした。その困難な活動を始めるにあたって神からの祝福の言葉、すなわち、
「あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」（3:22）
という言葉が与えられ、俗なる世界のただ中にあって、神の聖なる世界とのつながりを切らないために、絶えず祈る必要があったイエスさまでした。そのことから考えますに、わたしたちも絶えず神に祈る必要があるのだと思います。
ひとことお祈りいたします。
恵みの神さま、今日はイエスさまの洗礼について学ぶ機会が与えられました。イエスさまはクリスマスの夜に、わたしたちの俗なる世界のただ中に遣わされ、長じてのち洗礼を受けることによってその活動を開始されました。だれにも理解されることのない中にあって、イエスさまは祈ることを通してあなたとのつながりを保たれました。どうかわたしたちにも、祈りを通してあなたにつながる恵みをお与えください。このことを主イエス･キリストのみ名によってお願いいたします。アーメン