本日はただいまお読みいたしましたマタイによる福音書の第2章13節以下の物語から、ご一緒に考えてまいりたいと思います。クリスマスにはルカによる福音書から、マリアとヨセフの苦難の旅について考えたわたしたちでありましたが、本日はマタイによる福音書が語る苦難の旅について、ともに思いを巡らせて参りたいと思います。
マタイによる福音書ではヘロデというユダヤの王が「もうひとりの王がお生まれになった」という知らせに恐れを抱き、もうひとりの王としてお生まれになったイエスさまを亡きものにし、自分がただ一人の王として安定して君臨することを企みます。そのことを夢の中で天使のみ告げとして聞いたヨセフが、天使のみ告げに従ってその夜のうちに遠くエジプトまで逃げ延びる旅に出ます。それは朝を待って逃げるのでは間に合わないという絶妙なるタイミングのお告げでした。エジプトまでの逃避行は「主が預言者を通して言われていたことが実現するためであった。」と15節にあるように、旧約聖書の預言にあったことでした。
今日の福音書の後半も同じようなかたちを取っております。ヘロデが死んだという情報がエジプトで暮らすヨセフにもたらされます。これもまた夢の中に現れた天使のみ告げによるものでした。そして一家はイスラエルの地に帰って来るのですが、ヘロデの息子アルケラオという人物がヘロデの代わりにユダヤ地方を支配していると聞き、そこに帰ることをためらいます。すると再び夢に天使が出てきてナザレという町を示し、ヨセフはそのみ告げ通りにナザレに行き、そこに住みます。このことも23節に「『彼はナザレの人と呼ばれる』と、預言者たちを通して言われていたことが実現するためであった。」と記されています。この言葉もそもそも語られたのは神であって、預言者が神から託された言葉を人々に伝えたものでした。
「天使のみ告げ」と「預言の成就」、このいずれも苦難の旅がすべて神の導きによって成し遂げられたことを表します。マリアとイエス、そしてヨセフの旅は、ヨセフが素直に天使のみ告げを受け入れて、その言葉通りに実行したからこそ、預言者があらかじめ語った通りの結果として起こったということです。ルカによる福音書にはクリスマスの旅について、このような神の直接的な介入は描かれません。ルカは人間の苦難の旅を表現し、マタイは最初から最後まで神の導きによる旅を表現しているということができるでしょうか。もちろん神の導きがあったからといって、苦難は避けられないものであることに変わりはないのですが。
ヨセフは夢に現れる天使の言葉に対して素直に従いました。イエスさまが生まれたその直後に、夢に現れた天使の言葉をヨセフが「夢に過ぎない」と信じることなく、また眠りに落ちていたとしたら、イエスさまはヘロデの手に落ち、そのまま名も知られぬままに歴史から消えてしまったことでしょう。神に対するヨセフの素直さ、従順というものはそのままイエスさまの生き方の中に引き継がれていくことになります。
このイエスさまの従順についてパウロは次のように記しています。
「5 互いにこのことを心がけなさい。それはキリスト・ イエスにもみられるものです。6 キリストは、神の身分でありながら、神と等しい者であることに固執しようとは思わず、7 かえって自分を無にして、僕の身分になり、人間と同じ者になられました。人間の姿で現れ、8 へりくだって、死に至るまで、それも十字架の死に至るまで従順でした。」（フィリピの信徒への手紙2：5-8）
十字架の死に至るまでのイエスさまの従順についてパウロは記しています。そのイエスに倣う者となりなさいとパウロはわたしたちに勧めています。パウロ自身もイエスに倣う者となり、どこかに向かう旅路の途中で殉教の死を遂げたと思われます。イエスさまの初代の弟子、そして二代目の弟子の多くはこうして殉教の死を遂げたため、いつ、どこで、どのようにして死んでいったのかという記録が残らなかった可能性が高いのです。
「旅の途中で誰かの手にかかり、どこで死んだのかもわからない」という死に方は人間的に考えれば、できれば避けたいものです。それをわたしたちは「しなさい」と命じられているのです。だれがわたしたちの模範であるかというと、それはイエスさまです。イエスさまを模範として、イエスさまのように神のみこころに対して従順なものとなり、イエスさまと同じように苦難を受け、そして死になさいと言われているのです。
新春早々ありがたくもないお話しになってしまい、申し訳ないのですが、神のみこころに従順であるとはどういうことかを正直に申し上げれば、そういうことになってしまうのです。ですからわたしたちはつい、「神に従順でありなさい」という言葉の前に「できることなら」とか「できる限り」という言葉を付け加えることによって、神の言葉の角を丸くしてしまうのでしょう。
ひとことお祈りいたします。
いつもわたしたちに恵みを与えてくださる神さま。今日はイエスさまがその誕生の直後から、天使と預言者たちが語った通りに従順な者としてその人生を始められたことを教えていただきました。どうかわたしたちもイエスさまに倣う者として生きることができますように、豊かにお導きください。この祈りを尊き主イエスのみ名を通して、み前におささげいたします。アーメン