本日は、ただいまお読みいたしましたマタイによる福音書第10章34節以下のイエスのみ言葉から、ご一緒に考えてまいりたいと思います。本日の個所は先週の続きが記されておりまして、イエスが考える弟子のあり方が語られています。
最初から厳しい言葉が出てまいります。
「わたしが来たのは地上に平和をもたらすためだ、と思ってはならない。平和ではなく、剣をもたらすために来たのだ。」（10：34）
「平和ではなく剣」というのは、およそイエスらしからぬ言葉のように響きますが、イエスの言葉にある「地上に」という言葉を「この世」と置き換えてみて、「この世」と「神の世界」の対比として考えるとわかりやすいかと思います。置き換え直しますと「わたしが来たのはこの世に平和をもたらすためだと思ってはならない」となります。この世にほんとうにあなたがたが頼りとすることができる、そのような平和はないのだということを、イエスは仰りたいのではないかと思います。この世が与えるかに見える見せかけの平和に対して、イエスは剣をもたらすと言われているのだと思います。この世の平和に浸っている限りは、弟子たちが神の世界に到達することはできない。それをより具体的に説明するために、イエスは家族のことを例として取り上げます。
わたしたちにとって家族はどのような存在でしょうか。夫婦であれ親子であれ、家族というものは非常に近しい関係に結ばれますから、その関係の中に憎しみが入りこむようなことがあれば、それはどこまでも深い憎しみとなるでしょう。しかし多くの人にとって、近いが故に大切な存在として、家族が意識されることになると思います。自分のことを最も深く理解してくれる存在、自分のためならどんな犠牲も厭わずに動いてくれる存在、家族はそういうかけがえのない存在としてわたしたちの間に与えられていると思います。そのようにもっともかけがえにない存在、わたしたちがこの世で最も大切にしているものとの間に、神を信じることによって分裂が生まれることがあるというのです。
いたずらに家族を仲たがいさせるということとは違うと思います。神を信じようとするときに、最も近く、もっとも信頼を寄せる相手から理解してもらうことができず、そればかりかそこに激しい対立が生まれることも起こり得る、それがイエスが語ることの意味であると思います。そのことを今のうちから覚悟しておきなさい。イエスはさらに36節以下で次のように語ります。
「こうして、自分の家族の者が敵となる。わたしよりも父や母を愛する者は、わたしにふさわしくない。」（10:36-37a）
「また、自分の十字架を担ってわたしに従わない者は、わたしにふさわしくない」（10:38）
イエスの弟子となることが何を意味するのかということの一端を、この個所でイエスは語ります。イエスが憎しみを受け、苦しみを受け、この世の人生の最後には十字架の上で死ななければならなかったのと同じことを、弟子となる者は甘んじて受けなければならない。信じることによって憎しみを受け、苦しみを受け、最後には殺されることになる、それでもいいと覚悟を決めなさい。そのようにたいへん厳しいことを、弟子となる者は要求されております。たとえ殺されるほどの憎しみを受けても、イエスが自らの言葉と行いをもって示し、伝えるのをやめなかった神の愛、それをイエスに代わってこの世に対して示し、そして伝え続けること。それが弟子の務めであるとイエスは告げておられます。弟子として伝え続けることはこの世の人々との間に摩擦を生み、信じる者たちは避けようもなく敵意にさらされることになる。最も理解してほしい人が理解してくれないということも起こる。社会的に孤立することもあり得るだろう。しかしどんなことが起ころうとも、この世に対して神の愛を示し、そして伝えることをやめてはならない。それをやめてしまったら、あなたがたはそこで弟子であることもやめることになってしまうから。信じることもそこで終わってしまうから。だから伝え続けなさい。どんなことがあってもやめてはならない。そのことを今日の聖書を通してイエスは語っているのです。
「はっきり言っておく。わたしの弟子だという理由で、この小さな者のひとりに、冷たい水一杯でも飲ませてくれる人は、必ずその報いを受ける」（10:42）
今日の福音書の最後に置かれたこのイエスの言葉は、「冷たい水一杯飲ませてくれる人すら、ほとんどいない」という響きを持ちます。だから弟子であることの厳しさを強調するだけのように感じられるのですが、別の読み方もできると思います。
それは、冷たい水を一杯飲ませてくれる人は、少ないかもしれないけれど必ずいるという確信です。実の家族があなたに敵意を向けることが起こるその時に、あなたには新しい家族が必ず与えられることを信じなさい、神を信じる者たちが霊の導きによってかたちづくる、新しい家族の中にあなたは招かれる。新しい家族となる人たちはあなたが示す神の愛を理解し、なぜ伝えるのをやめることができないかというあなたの気持ちを理解する。そのような者が必ず与えられる。あなたの知らないところであなたのことが祈られ、あなたの知らないところで冷たい一杯の水が用意される。だから孤立しないで、気落ちしないで、新たに生まれる家族と共に歩みなさい。それが今日の福音書を通して、イエスがわたしたちに語りかけてくれることだと思います。
その新しい家族というのはだれなのかと言うと、それは今ここにいるわたしたちです。それなら安心だと思われるでしょうか、それともちょっと心細いかなと思われるでしょうか。それはわたしたちがどんな教会を作るかということにかかってくると思います。教会の中にどのようなあたたかく生き生きとした関係が生まれているのか、教会が力を合わせて何をしようとしているのか、神の愛を示し伝え続けることをしているのだろうか。教会の中に豊かな関係が結ばれているのであれば、教会の中に神の愛が豊かに満たされているのであれば、わたしたちは喜びをもってここを出て行き、神の愛を示し、伝えるその仕事を続けることができることでしょう。