今日の福音書はヨハネによる福音書17章20節からの個所で、いわゆるイエスの告別の祈り、イエスによる別れの祈りの後半です。これは時間的にはイエスが十字架につけられる前に、弟子たちとの別れの前に唱えた祈りですが、今日はこの個所を復活したのち昇天のできごとによってもう一度弟子たちと別れなければならなくなったイエスの、弟子たちを思う祈りとして読みたいと思います。イエスは次のように祈ります。
父よ、あなたがわたしの内におられ、わたしがあなたの内にいるように、すべての人を一つにしてください。彼らもわたしたちの内にいるようにしてください。(17:20)
ヨハネによる福音書がしばしばくりかえして語ってきたことが、今日の個所でもくりかえされています。父なる神がイエスの内にはおられ、イエスもまた父なる神の内にいる。神とイエスはひとつであるというイメージです。神とイエスとがしっかりとひとつに結び合わされている、それと同じように、どうか信じる者たちをひとつにしてください。そのことを、これから別れなければならない弟子たちを心配して、イエスが神にお祈りしてくださっているのです。
お祈りをしてもらわなければならないほどに、わたしたちがひとつになることはむずかしい、真ん中に立つイエスがいてくださればこそ、かろうじて保つことができる一致を、わたしたちの力だけで保つことはむずかしいということを、イエスはよくご存知だということがわかります。わたしたちは常に、イエスによって祈られることが必要なのです。イエス自らが神に願ってくださる、それほどのことなしにわたしたちの努力だけで「ひとつになること」は実現し得ないことだということがわかります。神とイエスとの関係の中につなぎとめていただくことのほかにわたしたちがひとつになり、それを保つことはできないのです。
父なる神とイエスとが互いに必要不可欠な存在としてある、そのことと同じように、わたしたちもまた教会の中で、互いに必要な存在として強く結びつけられているということです。教会の中にあってだれかが必要とされる一方で、ほかのだれかが必要とされないという事態はあり得ないということです。わたしたちは全員でイエスの体であり、イエスの愛を世に示していく存在だからです。わたしたちはいわば、ひとつの箱舟に乗り合わせ、どこに着くかもわからないまま大水の上を旅する仲間です。互いに大切な存在なのです。
ひとつになる、そのことがなぜ必要なのか。その説明がすぐあとの21節にあります。
そうすれば、世は、あなたがわたしをお遣わしになったことを、信じるようになります。(17:21)
わたしたちがひとつに結び合わされているその姿を見て、「世の人が信じるようになることのために」とイエスは祈ります。わたしたちがひとつに結びあわされている姿を見て、神の世界の価値観とは何ひとつとして相容れることがない「世」の人が、イエスが確かに今まで聞いたこともない神の価値観を伝えていることを理解するようになる。そして信じる者となって「世」からこちらに向けて一歩を踏み出すようになる。わたしたちのあり方を見て、信じない者が信じる者となる。そのことのためにわたしたちはひとつになる必要があるのです。わたしたち教会の中にいる者がお互いの関係を安定させることのためにひとつになる必要があるということなどではなく、イエスを信じ、神を信じる者が一人でも増えることのために、わたしたちはひとつである必要がある。イエスの名を伝えるために、宣教のためにわたしたちはひとつである必要があるのです。
わたしたちがひとつであることは、神に対する信頼を世に対してくりかえしうながす機会となります。世と神の世界とは対立的で決して交わることはないのですが、世とは違う価値観を持つ世界があることに気づく人たちは常にあるのです。わたしたちもかつては世の価値観だけに従って生きる者であったはずです。世に対して神の世界の価値観を示し続けるためにも、わたしたちはひとつであることが求められるでしょう。
わたしたちがひとつであることと言われて思うことは、この教会の中でひとつであることかと思います。それすらもむずかしいことであると思います。むずかしいからできませんと言っているうちに、気がついてみれば、いつの間にか世の力に支配され、世の価値観に従う世界が教会の中に形成されていることに気づく、わたしたちはそれほど容易に世の支配を受け入れてしまう者なのです。そのとき教会は神の力を失うことになるでしょう。イエスは
彼らが完全に一つになるため。（17:23）
と、わたしたちのために神に祈り続けてくださいます。わたしたちが完全にひとつになることができる、その日が来るのかどうか、愚かなわたしたちにはわかりません。しかし愚かなわたしたちと知りながらなお、わたしたちのために祈ってくださるイエスがおられるということを胸に刻みながら、わたしたちがイエスの祈りのうちにひとつにされる日が来ることを、ともに祈り求めたいと思います。