聖書の黙想(高崎聖オーガスチン教会)
この復活節のあいだ、わたしたちはヨハネによる福音書を読み進め、ヨハネが語る復活のイエスの姿を学ぼうとしています。ヨハネによる福音書は、登場する弟子の名前もほかの福音書とは異なっています。また地名も、たとえば今日の冒頭に出てくる湖はガリラヤ湖のことだと思うのですが、なぜかティベリアスという名前に変わっています。なぜかはわかりません。

今日の物語は弟子たちが湖に漁に出てみたけれど、何も獲れないというところからはじまります。これはルカによる福音書にも出てくるイメージですが、ヨハネはこの物語を復活後のできごととして扱っています。

湖に漁に出た弟子たちでしたが、何度試しても魚は獲れません。すると岸辺にいただれともわからない人から「舟の右側に網を打ちなさい」とたいへん具体的な、しかしよく考えると奇妙な指示がなされます。言われたとおりにすると網を引き上げることもできないほどの重さの魚がかかったと書かれています。さらにそれを陸に引き上げて数えてみると153匹の魚がかかり、それにもかかわらず網は破れていなかったことがわかります。ふつうはそれだけの数がかかると網は破れてしまっていたのでしょう。数もおそろしいほどなら、それで網が破れないということも不思議なことでした。できごとが進む中で弟子たちは、岸辺に立つだれともわからない人がイエスであるということに気づくのでした。

この不思議な物語の中で、153というたいへん具体的な数字が印象に残ります。「たくさん」と書いてもすむはずなのに、まるで誰かが数えたかのように端数まで特定して書かれると、その数字に何らかの意味があるのかのようです。アウグスティヌスから今日に至るまで、さまざまな説が唱えられてきたのですが、どれも根拠がありません。ですから今日は、153というのは「とても大きな数字」と考えておきたいと思います。153という大きな数字が印象に残る一方で、1という数字もわたしの印象に残ります。1が何を現すかというと、弟子たちが使っていた網です。その網がどんなにたくさんの魚がかかっても破れなかったということが印象に残ります。153と1という数字が不思議なできごとの中で対比されていることに、わたしたちは心を留めておきたいと思います。

今日のヨハネの物語にはもうひとつわたしたちの注目を集めるものがあります。物語はペトロという弟子に注目するよう、わたしたちにうながします。まずはじめに「わたしは漁に行く」と、ほかの弟子たちに呼びかけるのがペトロです。そして岸辺に立つ人がイエスだとわかったとたんに「上着をまとって湖に飛び込んだ」のもペトロです。そして思いもかけないほどの大漁を再び「舟に乗り込んで網を陸に引き上げる」のもペトロです。この物語の主人公であるイエスに次ぐ活躍を見せています。そしてこのペトロの姿の中に、わたしたちは復活のイエスと出会ったことによる大きな喜びを見ることができるのです。

ペトロは裸同然の姿でいたと書かれています。それは漁をしていたほかの弟子たちも同様であったのだと思うのですが、あれは「主だ」という言葉を聞いた瞬間、これではいけないと思ったペトロは上着をまといました。そして次の瞬間、彼はためらうことなく水に飛び込んでいました。大量の網を引きずっての舟の歩みがじれったく感じられたのでしょう。一刻も早くイエスに会いたい、その一心で彼はイエスめがけて泳ぎはじめていました。この水に飛び込むペトロの姿の中に、大きな喜びに包まれ、ただただ会いたいという思いに支配されたペトロの心が見えるように、わたしは思います。

これが今日の福音書が語る復活の喜びです。先週の福音書ではトマスという弟子に、からだに刻まれた傷に注目するようにとうながすイエスがおられました。傷こそが喜びにつながるというメッセージがありました。そして今日の物語には弟子たちの日々の糧について具体的に心配し、心配に対しておびただしい数の収穫をもって応えてくださるイエスの姿があります。

さらに考えれば、153というおびただしい魚の数と対比させるように、破れなかった網が示す1という数字があります。おびただしい数に目を奪われる裏で、たったひとつのものにも奇跡が起こっていることがあるかもしれない。わたしたちが気づかずにいるうちに、破られることなく保たれているものがあるかもしれない。そんなことも、今日の物語がわたしたちに語りかけてくれていることだと思います。

今わたしたちがともに時を過ごすこの教会に、おびただしい数の何かがもたらされるようなことはたぶん起こらないだろうというのが、わたしたちのあいだに流れる雰囲気であると思います。それはちょうど、一晩中網を打ったけれど何も獲れない弟子たちの胸中と重なるように思います。

そんなわたしたちに「網」が破れないというメッセージが与えられるのです。たったひとつですが、もともとは弟子たちの手のうちにあり、彼らが使っていたものが破れなかったということは、わたしたちにも与えられていることではないかと思います。もともとわたしたちのあいだにすでにあったもの、数はひとつと控えめで、生活の中に埋もれているようなものが、状況としてはいつ破れてもおかしくないにもかかわらず破れない、そういうことは起こっているかもしれません。わたしたちのあいだに関係であるかもしれないし、わたしたちの心のようなものかもしれません。わたしたちはイエスとともに歩むとき破れることなくここに立ち続ける、そのことを信じながら、ともに歩みを進めたいと思います。