今日はヨハネによる福音書が読まれます。登場するのは洗礼者ヨハネ、先週も登場した人です。洗礼者ヨハネは4つの福音書すべてに登場する、珍しいといってもいい人物です。マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネと4つある福音書のうち、マタイとマルコとルカは共通する部分が多いので共観福音書と呼ばれます。しかしヨハネによる福音書は他の3つの福音書との共通性が少ないことで知られています。ヨハネによる福音書はその書き方も独特です。
ですから洗礼者ヨハネが4つの福音書すべてに登場しているということがわかると、それはいったいどうしてなのかと、意外に思います。どうして洗礼者ヨハネという人がそれほど取り上げられるのかと思います。おそらく福音書がまとめられたころの教会の中で、洗礼者ヨハネという人の位置づけが問題となっていたのだと思います。イエスよりも先に現れ、もうすぐ神の時がはじまると告げ人々に悔い改めをうながすという洗礼者ヨハネの働きは人々の目に救い主と映った可能性があります。イエスより先に現れてイエスと同じような働きをはじめた洗礼者ヨハネとは何者なのか、その人をどのようにとらえたらいいのか。もしかするとイエスと洗礼者ヨハネと、どちらがいったい救い主かという質問があり、福音記者たちはそれに答える必要があったのかもしれません。
ヨハネによる福音書はそのあたりに関してはとてもはっきりとした考え方を持っています。そのことを表す言葉が今日の福音書のはじめの方に4回出てきます。それは「証し」という言葉です。7節に「彼は証しをするために来た」とあります。さらに続けて「光について証しをするため」と書かれ、8節でもう一度「光について証しをするために来た」と確認されています。そして省略をはさんでそれに続く19節で「さてヨハネの証しはこうである」と紹介されて、その証しの内容が続きます。洗礼者ヨハネの役割は証言をすることにあったとヨハネによる福音書は彼の役目を語ります。「わたしはメシアではない」というはっきりとした否定の言葉もあり、自分が来るべき救い主ではないことを明らかにします。救い主、すなわち今日の福音書の言葉で「光」であるのはイエスで、ヨハネは光について証言するのが役割だというのです。イエスより先に現れて、イエスが何者であるかを伝えてくれる、それがヨハネの仕事でした。
その洗礼者ヨハネにユダヤ人たちがいろいろと質問をします。ヨハネによる福音書の中ではこの「ユダヤ人」という言葉はイエスのことを理解することができず、また理解しようともしない人たちのことを示します。福音書がはじまってまだ間もないところで、イエスに敵対する人たちがすでに登場することは、この先のイエスの歩みがむずかしいものであることを想像させます。
洗礼者ヨハネはイエスを信じることがない人たちに、イエスの力の大きさを伝えます。あとから来る方がいる。「わたしはその履物のひもを解く資格もない」と。履物のひもを解くというのはこの当時の奴隷の仕事です。自分にはそれをするような資格もない、それほどわたしとその方の間には力の違いがある、それほど大きな力を持った方、神の栄光に満ちた方が現れるのだと洗礼者ヨハネは語ります。
26節を見ますとそこには「あなたがたの中には、あなたがたの知らない方がおられる」というヨハネの言葉があります。今日はこれを大切な言葉として受け止めたいと思います。「あなたがた」という言葉は、「わたしたち」と受け止めていいと思います。わたしたちの知らない方が、わたしたちの知らない間に、すでにおられることを福音書はわたしたちに告げます。イエスはすでにわたしたちの間におられるのだということです。これがクリスマスのできごとにつながる大切な言葉であると思います。イエスという方がただ単に神のお考えあるいは神の言葉であることを超えて、わたしたちの間に人間のすがたで、命をまとってやってきてくださったということが、わたしたちには喜ぶべきできごとでした。ただわたしたちは知らないのだと、ヨハネは告げるのです。こんなに大切な方がすでにわたしたちの間にいる、神の栄光に満ちた方がいるのだけれど、わたしたちはそれに気づいていないというのです。それがわたしたち人間の現実であると、福音書をまとめた人は知っているようです。人間の理解よりも早く、神は行動を起こされました。わたしたちが知らないうちに救い主が与えられました。それも神の愛の深さを表すことでしょう。なぜかはわからないけれど、神はわたしたちのことを深く愛してくださって、わたしたちのために大切なイエスを派遣してくださった。そのことがわたしたちにわかるのがクリスマスという時です。わたしたちの間にわたしたちの知らない方がすでに来ておられるということをわたしたちは知らないながらも信じたいと思います。そのことから、わたしたちが信じることのすべてがはじまるのですから。
今この時もすでにイエスはわたしたちの間におられます。わたしたちにとって12月25日はそのことを毎年確認するときです。単に毎年めぐって来るお祝いだからということではなく、イエスがわたしたちの間に、わたしたちに知られることもなく、すでに来てくださっているということを、わたしたちはこのとき忘れずにいたいと思います。