はじめに今日の福音書の最後のところ、16節を読んでみましょう。「このように、後にいる者が先になり、先にいる者が後になる。」とそこにはあります。これは福音書によく出てくるイエスの言葉です。わたしたちがおだんごを買うために行列しているところを想像してみましょう。わたしたちが列のいちばん最後に並んでいたとして、どうぞどうぞといちばん前に並ばせてもらうことができたとしたら、これはうれしいことではないでしょうか。逆に列の先頭に並んでいた時に、いちばんうしろに並びなおしてくださいと言われたらどうでしょう。これは残念ですね。わたしたちは行列の最後よりは先頭にいる方がいいと考えます。おだんごが近いからです。おだんごの行列の順番、というようなことを通してイエスが何を教えてくださるのか、それを見ていきましょう。
福音書の最初のところを見てみましょう。そこには「天の国は次のようにたとえられる」というイエスの言葉があって、たとえが天の国を語るものであることがわかります。前にも申し上げたことがあるのですが、ここでイエスが言う「天の国」とは、どこかにある場所を指すというよりも、神のみこころ、神のお考えを表すと考えた方がわかりやすいと思います。わたしたちに向けられる神のみ心はいったいどのようなものなのでしょうか。たとえを見ていきましょう。
ぶどう園の持ち主がいます。一日１デナリオンの賃金で働く人を雇います。夜明け、９時、１２時、そして３時にも雇われた人たちがいて、彼らは働くためにぶどう園に向かいます。しかし主人はさらに５時にも人を雇います。これはおかしなはなしです。日が暮れたら仕事は終わりです。残り一時間のために人を雇うでしょうか。もし雇わなければならないのだとしたら、この主人は仕事に対する見通しが相当甘いということになるでしょう。しかしこれは実際起こった話ではなく、この話で何か別のことを示そうとするたとえばなしなのですから、イエスの物語をそのまま鵜呑みにするしかありません。
日が暮れて支払いがはじまります。いちばん長く働いた人から順番にかと思ったら、５時に雇われてあまり働くことのできなかった人たちから支払いがはじまります。彼らは約束通り一デナリオンもらうことができました。この人たちが一デナリオンならわたしたちはもっと多くもらえるのだろうと、早くから働いていた人たちは思いました。しかしさにあらず、全員一デナリオンしかもらえませんでした。それはおかしいと抗議する人に対して主人は、「わたしは約束通りにしているではないか」と言います。「わたしの気前のよさをねたむのか」とも。たしかに主人は約束を破ってはいません。だれにも一デナリオンという約束でした。わたしはあまり働くことのできなかった人にも一デナリオンを渡した。なぜかと問われれば、わたしがそうしたいから。そうしなければならないというのではなく、そうしたいから。わたしがそうしたいという気持ちを止める権利はあなたたちにはない。わたしは自分のしたいように人を雇い、そして支払いをする。
これがたとえの内容です。ぶどう園の主人は神を表すでしょう。神はわたしたちみんなに一デナリオンずつ支払いたいと考えてくださっているということです。みんなに一デナリオンというと公平のように響きますが、実はそうではないと思います。さりとてもたとえの中の労働者の不満の言葉のように、朝早くから働いている人にこの主人が不当な仕打ちをしているということではありません。そうではなく、神は十分に働くこともできず、したがってこの世の常識に照らせば一デナリオンをもらうことができないはずの人を、まず第一に、そしてひときわ手厚く扱うのです。なぜと問われれば、神はそうしたいから。
神はそのように人にかかわるのだと、イエスはたとえを通して語られます。そしてその裏でおそらくイエスが問うているのは、「あなたがたはどうしますか」ということでしょう。
先週わたしたちは、神の赦しがどこまでも深いということを学びました。そして今日、神の恵みは列のいちばん後ろに並ぶ人ような人にまず注がれるということを学びます。そしてもちろん他の人にも恵みは注がれるのですが、列のいちばん後ろに並ぶ人にまず注がれるのです。あなたがたはそれを学んでどう生きるのかと、イエスは問われます。
わたしたちは自分より後ろに並んでいる人のことを考えることができるでしょうか。ことにおだんごが目の前にあるときに、あるいは既におだんごを手にしているときに、自分より後ろの人にそれを譲るとか、それをわかちあうということを考えることができるでしょうか。わたしたちは幼いころから順番に並ぶことと、順番を競うこと、順番を意識することを学び続けてきたように思います。順番は守るべきだと考えます。神はその順番を無視して、あるいは順番をこわしてでも、十分に働くことができないような人にまずはじめに気前よくかかわるということを、わたしたちは新たに学びたいと思います。そしてふと気がつけばわたしたちも神の前では、午後５時にぶどう園にやってきてあっという間に日が暮れて、ろくに働くことができないような者かもしれないということをおぼえたいと思います。