聖書の黙想(榛名聖公教会)
今日の福音書はマタイによる福音書5章の21節以下が選ばれています。5章の冒頭には有名な「幸い」についての磨き抜かれた言葉が記されていたのですが、今日の個所はそのすぐ近くにあります。「幸い」をめぐる言葉からイエスの説教、弟子に対するイエスの説教がはじまったのですが、今日の個所も弟子たちに対する注意が引き続き記されています。

ただその内容として厳しいものが続きますので、いったいどのようにここを読み進めたらいいのかと、とまどう方もおられるのではないかと思います。話のテーマが三つ出てきますが、どれも同じ形をとっていますので、その形から見ていきましょう。

はじめに当時のユダヤ教の人々にとって大切だったと思われる約束が出てきます。はじめの二つはモーセの十戒の一部ですから、大切な約束、神との約束になります。その約束の言葉が語られた後に、イエスの言葉が続きます。「しかしわたしは言っておく」という同じ言葉が三つの話にそれぞれ響きます。そして約束の言葉についての、イエスの新しい見方が示されます。大切な約束の言葉は、「しかし」というイエスの言葉によってより深いものとされ、またわたしたちに別な意味を指し示すものとなります。

21節からのはじめの話を読んでみましょう。はじめに「殺すな」という旧約聖書の十戒にある有名な神との約束が出てきます。「しかし、わたしは言っておく」というイエスの言葉が続きますが、これはかなり強い言葉です。ここでイエスが語ることをまとめると、「殺すな」どころではない、もっと細かいところを気にしなさい、ということになるでしょうか。仲間に対して腹を立てる、反感を持つ、仲間をばかにする言葉を口にする、そういう自分がいないかどうか振り返ってみなさいということです。ここでの仲間とは、教会でともに働くものということになるでしょう。仲間を尊重し仲間とともに働くことができるかどうか、「殺すな」という命令もその根本において他人を尊重しなさいということを表していると思うのですが、もっと細かいところ、日々の暮らしのどうということもないようなところで他人を尊重できるかどうかを考えなさい。それができないままで神のために働くなどということはできないということでしょう。

二つ目の話は「姦淫するな」という、これも旧約聖書の十戒の約束の言葉が出てきますが、たぶん男の人はみんな目を抉り出さなければならなくなるので、飛ばします。お許しください。

三つ目の話は「誓い」ということが話題となります。偽りの誓いを立てるなということと、神に対して誓ったことは必ず果たせという言葉に対してイエスが、誓うなと言います。天にも地にも誓うな、ということは神に対しても人間に対しても誓うなということです。ここでのイエスの言葉の根底にあるのは、誓うということが人間にとって不可能なことであるという確信であると思います。だれかに対して何かを誓うということは、だれの目にも明らかにされることで、ある意味で見栄えがいい、しかしそれは人間には実現不可能なことだ、だからそれはするな、ということです。では何をすればいいのかということが、そのあとに続きます。

「然り然り、否否」という言葉が出てきます。これはこのままだとわかりにくいのですが、然りは「はい」、否は「いいえ」ということですね。はいと答えたらはいという言葉の通りに動きなさい、いいえであればその言葉の通りに動きなさい。神との関係の中で自分の言葉に忠実に、神の仕事を担って行きなさい、というこれも教会の一員としての注意が語られています。

このように今日のイエスの言葉は、教会に集うわたしたちがどのように生きたらいいかという教えとして読むことができます。先ほど飛ばしてしまった二つ目の話も、何も目を抉り出せということではなく、それほどまでにお互いの間で注意と敬意を払いながら、教会の中で互いを尊重しながらいきなさいという注意につながるでしょう。欲をもって相手を見るのではなく、互いに尊重のまなざしを持ちなさいということです。

今日読まれました使徒書、パウロの言葉の最後の方にこんな言葉がありました。「わたしたちは神のために力を合わせて働く者であり、あなた方は神の畑、神の建物なのです」。パウロは教会に集うわたしたちをそのように表現してくれています。わたしたちが何のために教会に集うのかと言えば、それは神のために力を合わせて働くため、そしてそのように働くときにわたしたちは神の畑であり神の建物となる、それほどのものになることができるとパウロは約束してくれています。

わたしたちはどれだけお互いを尊重しながら今という時を生きているでしょうか。どれだけお互いを気遣いながら過ごしているでしょうか。教会の中でそれができていないとすれば、教会の外でもそれはできないでしょう。わたしたちが教会の外で人を尊重することができないのであれば、神は教会の外に伝わることはありません。だからまず教会の中での生き方によくよく気をつけなさい、それが今日のイエスの言葉がわたしたちに教えてくれることです。