わたしたちは復活日から今日まで、ヨハネによる福音書を続けて読んでまいりました。今年はルカによる福音書を読むときにあたっているのですが、その間にときどきヨハネによる福音書が入ってきます。この二カ月近く続けて読んできたヨハネによる福音書が、わたしたちにどのようなことを教えてくれたのか、そのことをはじめにおさらいしたいと思います。
わたしたちは復活日の礼拝でイエスと弟子たちの喜びの再会の物語を読みました。しかしやがてイエスの昇天のできごとが近づいてきます。イエスが十字架の上で死んでしまったことは弟子たちに大きなショックを与えました。それと同じように、復活してもどって来てくれたイエスが突然天に帰って行ったとき、弟子たちは呆然としたはずです。また自分たちは取り残されてしまった、そのように彼らは思いました。復活日からの日々は再会の喜びから再び別れを経験しなければならないことへと移り行く日々でもありました。だからイエスは昇天のできごとの前に、別れの前に、弟子たちを励ます言葉を残しました。
ヨハネによる福音書によれば、大切な新しい掟として「互いに愛し合いなさい」という言葉が与えられました。そして必ずイエスによる平和が与えられるという約束も与えられました。この世が与えるものとはまったく違うイエスの平和が与えられると。また、聖霊の助けが与えられるという約束も与えられました。そして先週、聖霊降臨日の福音書の中で、イエスの平和も聖霊も、これから先の遠い未来に与えられるものではなく、復活のイエスによってすでに与えられたのだということをわたしたちは読みました。弟子たちに起こったことはすなわちわたしたちにも起こったことですから、わたしたちもまたイエスの平和そして聖霊の助けをすでに与えられているということです。
しかしだからと言ってわたしたちの生活がすぐに平和に満たされるとか、聖霊に支えられて何の憂いもなくなるというものではないでしょう。それを裏付けるかのように今日の福音書の冒頭でイエスも「言っておきたいことは、まだたくさんあるが、今、あなたがたには理解できない」と語ります。わたしたちにとって「今このとき」は理解できないこと、わからないことに満ちているということです。だからいつも不安がわたしたちにつきまといますし、納得できないことも起こるのです。わたしたちにとっては、神を信じることによってあるいはみ言葉が与えられれば、それで憂い悲しみがすべて去り明るい道を進むことができるようになるというほど、現実は簡単ではないということです。
だからといってわたしたちが暗い道を進んでそれで終わりというわけでもないでしょう。暗い道は明るく照らされます。今わからないことがわかるようになる時がきます。そのために「真理の霊」が与えられるとイエスは教えてくれます。もちろん霊が与えられればすべてが簡単に解決されるということではないと思いますが。
わたしたちが人生を歩むとき、何かが起こります。うれしいことだけではなく悲しいことも起こります。理解できることばかりではなく理解できないことや受け入れがたいこともまた起こります。何かが起こるそのときに、わたしたちはそのできごとをしっかりと受けとめ、それに取り組むはずです。そのときわたしたちは聖霊の助けを必要とします。
聖霊は13節後半にあるように、「自分から語るのではなく、聞いたことを語」ります。聖霊が何か新しいことを語るのではなく、イエスから聞いたことを再び語ることによって、わたしたちがイエスの言葉を思い出すことができるようにしてくれるということでしょう。
慰めも、生きる勇気も、知恵も、すべてイエスによってすでに示されているのです。わたしたちの歩む道もはっきりと示されています。しかし現実に目をふさがれるとき、それが見えにくくなることがあります。イエスによって示されるものを思い出すこともできないほどに、現実に圧倒されてしまうことがあります。あるいは淡々として毎日が同じように平らに通り過ぎてしまうので、人生に意味あることが何も感じられなくなってしまうことがあります。どんなものであれ病気にかかればそれは気になります。病気にかかるのが自分であれ家族であれ、同じように気になります。病気はわたしたちがふだん考えなくてもいい死のことを、わたしたちに思い起こさせます。とてもこわい死ですが、それがいつやっていくるのかわからないから不安になります。
そのようなことに囲まれながらわたしたちは日々の現実に取り組みます。どうしていいのかわからないままに取り組むのです。聖霊の助けを願い求めながら、イエスがこの現実にどのような言葉を残してくれているのか、それを探し求めながら取り組み、そして祈ります。
わけのわからない人生の問題のひとつひとつに取り組むとき、そのつどイエスの言葉が初めて聞く言葉のように響きます。聖書を読むことで今まで何度も目にしていた言葉が、今日はじめて聞くもののように響き、新しい世界をわたしたちの前に開きます。わたしたちは取り組むたびに、そのつどイエスの言葉を新しく理解していくのです。あらかじめわかっていることなど何もありません。生きている自分が現実にぶつかって取り組み、考え、そこでイエスの言葉がまるで初めて聞く言葉のように与えられるのです。そのとき初めて、イエスの言葉はわたしたちを支えるものとなります。それが聖霊に支えられるわたしたちのわかり方です。これから聖霊降臨後という長い教会の季節を過ごすことになるわたしたちにいつも神、イエス、そして聖霊からの新しい理解が与えられること、そのことをともに願い求めたいと思います。