聖書の黙想(榛名聖公教会)
今日の福音書は大きく三つに分けることができます。まずはじめに洗礼者ヨハネによる厳しい警告の言葉が告げられます。次いでその警告にしたがって生きるにはどうすればいいのかという質問と、それに対するヨハネの答えが記されています。そして最後のところには、ヨハネに対する人々の期待と、それに対するヨハネの答えがあります。

洗礼者ヨハネはイエスが公に活動を始める前に現れ、神に出会う準備をするようにと人々に勧めました。自分の人生をふりかえり、反省しなさいと人々に告げました。悔い改めと呼ばれるこの反省を行った人々をヨハネは川に導き、川の水で洗いました。その儀式の名前をとってこの人は「洗礼者」と呼ばれます。悔い改めようという人たちがヨハネの周囲に集まったのですが、中には『自分たちは悔い改める必要などない』と思う人たちもいました。その人たちに向けてヨハネは厳しい警告を発します。

「蝮の子らよ」という言葉でヨハネは語りはじめます。相手に対して好意を抱いていないことは明らかです。自分たちの祖先が偉大な人物だからなどという理由で自動的に神の救いを得ることができるなどと考えてはいけない、そのような考えは全く根拠のないことだとヨハネは語ります。

悔い改めない者を切り倒そうと、神はすでに木の根元に斧を用意しているとヨハネは語りました。今すぐ悔い改めなければいけないという切迫した雰囲気をもって、ヨハネは人々に迫りました。今のままではいけないらしい。それではいったいどのように生きたらいいのか。人々はヨハネにたずねました。「わたしたちはどうすればよいのですか」という質問が三回くりかえされます。それだけ人々は真剣にたずねたということでしょう。それぞれの質問に対してのヨハネの答えをまとめると、自分の欲望や都合のために他人を利用するなということになるでしょう。自分の立場を利用して人からだまし取ったり脅し取ったりしてはならない。ここで富に対する考え方がひとつ明らかにされています。他人から奪うかたちで自分の富をふやすような生き方をしてはいけない。神から与えられた能力や権力を人を利用するために用いてはいけないということです。

それでは、自分の力や富といったものをどのように用いればいいのでしょうか。ヨハネの答えであきらかにされているのは、それを他人と共有するということです。わずかばかりであったとしても、人より多く持っているものがあるならば、それを誰かにあげるということです。今日は誰かから何かをわけてもらう人も、いつか人より多く持つ立場に立つときがあれば、そのときは人にわけるということです。

先週の福音書に、神が来られるから道をまっすぐにしなさい、でこぼこを平らにしなさいという預言者の言葉がありました。ヨハネの勧めは、わたしたちの間にあるでこぼこ、持ち物や富といったものに関するでこぼこを平らにしなさいという意味で受けとめることができるでしょう。

平らにするためには、でこぼこがあると気づかなければなりません。このままではいけないということに気づかなくてはいけません。そのことに気づき、その次にそれではどうしたらいいのかと考えること。そのようにまず自分の人生をふりかえりなさい、これでいいのかどうか考えなさい。そして、今のままではいけないのであれば、それではどうすればいいかを考えなさい。そのようにして、今の人生とはちがう人生へと自らを動かしなさい。それが洗礼者ヨハネの勧めたことでした。神の目から見てよい方へ、神がよしとされる方へと自分の人生を方向転換しなさい。そしてそれを、今すぐしないさい。

洗礼者ヨハネは深く人々の生活にかかわり、そして深く憂えていたのだとわたしは思います。憂いをおぼえ、そして怒りをおぼえていたと。こんな世界は神に清めていただかなければならない、一刻も早くこの世の悪が断たれ、不正にあえぐ者が救いを得られるようにならなければならない。すべての悪が火をもって焼き滅ぼされるときが早く来ますように、そうヨハネは願っていました。だからそのときに滅ぼされないためにも、人々を早く悔い改めさせなければと思っていたのではないでしょうか。

人々はそのように今までにないことを自分たちに迫るヨハネを前にして、この方こそわたしたちが長らく待ち続けているメシア、救い主ではなかろうかと思いました。しかしヨハネはちがうと告げました。わたしよりもはるかに強い力を持った方が来られる。

けれども、来るべき方が持っている強い力についてヨハネが抱いていた期待は、残念ながら正確なものではありませんでした。すべての悪を焼き滅ぼしてこの世を清めてくださる方をヨハネは求めました。しかしヨハネの前に現れた救い主は、そのような方ではありませんでした。悪い者を滅ぼすのではなく、悪い者であってもその生き方を方向転換することを願い、どこまでも待ちながらつきあって歩んでくださる方、それが救い主イエスの生き方でした。

わたしたちが方向転換するのを待ってくださるイエスとともに、そして「悔い改めよ」というヨハネの声に従いながら、わたしたちはどのように生き方を変えうるのでしょうか。そのことを考え続けたいと思います。