聖書の黙想(高崎聖オーガスチン教会)

イエスが十字架の上に死に、復活し昇天したあと、弟子たちは最初の教会を作り、それが広がっていきました。イエスの教えは、ユダヤ教の一派であると考えられていました。だから彼らはユダヤ教の会堂でともに祈ることができました。しかしやがて教会はユダヤ教徒は異なる教えを宣べ伝えていることがわかり、ユダヤ教から迫害を受けることになりました。時の支配者であるローマ帝国も、自分たちの言うことを聞かない教会を迫害しました。

迫害のひとつの理由として次のようなうわさがありました。キリストを信じる者たちは夜こっそりとだれかの家に集まっている。そして人の血を飲み、人の肉を食べているらしい。これが誤解であるということをわたしたちは知っていますが、わざわざ誤解を招こうとしているかのような言葉が今日の福音書には出てまいります。

55節のイエスの言葉にこうあります。「はっきり言っておく。人のこの肉を食べその血を飲まなければ、あなたたちのうちに命はない」。先週まで「命のパン」という言葉が中心に語られていました。イエスこそが命のパンであるという言葉でした。「イエスが命のパンである」ということはイメージとしてはイメージとしてはわかるような気がいたします。そのパンが実はイエスの「からだ」なのだと説明が進み、先週の福音書ではその「からだ」が「肉」という生々しい言葉に変わりました。そして今日は、肉を食べるだけではなくイエスの血も飲まなければならないと語られています。それをしなければイエスから命は与えられないという重要なこととして。

「肉を食べる」という言葉も生々しくて気持ちのいいものではなかったのですが、「血を飲む」と言われるとわたしたちのほとんどはそのようなことはしたことがありませんから、受け入れがたい言葉です。特にユダヤ教の人たちにはこの「血を飲む」という言葉は到底受け入れることができないものでした。ユダヤ教の人々は今でも肉は食べてもそこに含まれる血は食べません。それは旧約聖書に守るべきこととして記されています。おそらくは砂漠のように厳しい気候の中で肉が腐るのを防ぐことと結びついていたのではないかと想像するのですが、いまでもユダヤ教の人たちが食べる肉は血を絞った状態で売られています。そのようなことを守って生きている人たちにとって「血を飲まなければ」というイエスの言葉は自分たちの信仰に対する挑戦もしくは挑発の言葉として響いたのではないかと思います。

イエスがそのようなことを語るのであれば、はじめに語ったように「あの人たちは人の血を飲み人の肉を食べている」といううわさを立てられたとしても仕方がないようにも思われます。いったいイエスはどのような思いからこのような言葉をわたしたちに向けるのでしょうか。

わたしたちがイエスの肉を食べその血を飲むときに、イエスのからだはどうなってしまうでしょうか。わたしたちがパンを食べるようにイエスのからだを食べれば、イエスのからだはいつしかなくなってしまうでしょう。それでもいいのでしょうか。それでもいい、とイエスは考えました。イエスはパンを割いて与えるように自らを分け与えます。その結果として自らは消えてなくなってもいいと考えています。自分の命はなくなって、それでわたしたちが生きるのであればそれでいい、自らはわたしたちを生かすパンとなって消えていく。それがイエスの思いです。そこまで深く、イエスはわたしたちのことを心配してくれているのです。目の前にいる人々の病状を心配しながら病をいやしてくれたのと同じように、深い配慮の気持ちをもって、イエスはわたしたちに向き合ってくださるのです。

それがイエスのあり方、イエスの生き方でした。57節にこう記されています。「生きておられる父がわたしをお遣わしになり、またわたしが父によって生きるように、わたしを食べる者もわたしによって生きる」。これはヨハネによる福音書に特徴的な書き方です。わたしたちを生かすのはイエスですが、そのイエスは神によって生かされている、だからわたしたちは神によって生かされている、とイエスは語ります。わたしたちが生きる、それが神のみ心であると。

わたしたちが生きる、そのことのために自分の肉や血といった大切なものを分けたいと思う、生きていくのに不可欠なものを差し出したいと思うほどまでに、イエスはわたしたちのことを思ってくれている。そのことをわたしたちは忘れずにいたいと思います。

イエスのわたしたちに対する思いを忘れないために、わたしたちは毎週聖餐式を行います。イエスのからだと血を毎週わかちあいます。忘れやすいわたしたちだから、毎週行います。心が離れやすいから、毎週行います。イエスがどれほど深くわたしたちのことを心配しているか、イエスがどれほど深くわたしたちを養ってくれているか、イエスがどれほど深くわたしたちの人生に影響を与えているのか、そのことを忘れないために、わたしたちはイエスのからだと血であるパンとぶどう酒を分けます。そしてそのことを通して、イエスがわたしたちの中にいてくださることを確認します。

イエスから生きる力を与えられているわたしたちは、毎日を生き生きと過ごしたいと思います。そしてわたしたちだけでなくみんなが生き生きと生きるために何ができるのか、わたしたちが生き生きと生きることを妨げているのは何であるのかを確かめていきたいと願います。
ＢＡＣＫ
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