聖書の黙想(榛名聖公教会)
今日のイエスのみ言葉は、ご自分がまもなく人々に捕らえられ、十字架の上で死ぬことを知っているイエスが、弟子たちに語り、また弟子たちのために祈る個所で、「訣別説教」すなわち別れの説教と呼ばれるみ言葉の一部です。
今日の福音書のはじめのところ、15節でイエスは大切なことを語ります。そしてそれが少しかたちを変えて、21節にもう一度現れることになります。まずそれを見ておきましょう。15節にはこうあります。「あなたがたは、わたしを愛しているならば、わたしの掟を守る」。わたしを愛しているかどうかは、わたしのおきてを守っているかどうかによってわかるとイエスは語っています。イエスを愛することとイエスの掟を守ることが同じであると、ここでは告げられています。21節にはこうあります。「わたしの掟を受け入れ、それを守る人は、わたしを愛する者である」。やはりここでも「掟」という言葉と「愛する」という言葉が並べて語られています。イエスの掟を守れば、それはイエスを愛していることになるということです。イエスの掟を守ることとイエスを愛することはひとつであるということです。逆に考えれば、イエスを愛していない者は掟を守ることができない、掟を守らない者はイエスを愛しているとは言えないということもできるでしょう。
掟とは何でしょうか。ユダヤ教の時代から、守るべき掟は存在し、大切にされていました。そのユダヤ教の掟に対して、イエスは新しい掟を人々に告げました。その内容はヨハネによる福音書の13章に記されています。それは「互いに愛し合いなさい（34節）」というものでした。愛することを突き詰めるとどうなるか、そのことは来週の福音書が語っておりますので、来週に機会を譲ります。今日は「掟」そして「愛する」ということについて考えたいと思います。
イエスは掟を守ることがわたしを愛することだと語りました。そのイエスによる新しい掟の中に、すでに愛が含まれています。「愛し合う」こと、人間が互いに愛し合うこと、それをほんとうに掟として守ることが強く勧められています。ユダヤ教やキリスト教の世界では、「掟」という言葉は単なる規則や決まりといったものを指すのではなく、「神から与えられたもの」という響きを持ちます。人間が作り出した決まりではない、ということです。神とつながるために避けることができないものとして、神から与えられたものであって、わたしたちが作り出したものではないのです。イエスも掟という言葉を同じように用いています。これを守るか守らないかによって、わたしとの関係に入ることができるかできないかが決まるほどに重要なものだ、だから守りなさい。そしてわたしとの愛の中にとどまりなさい。そのようにイエスは呼びかけてくれています。
「互いに愛し合い」ということは、わたしたちでも考えつくようなことです。あるいはわたしたちが日々の暮らしの中ですでに努力していることかもしれません。しかしイエスが告げる愛は、もっと深いところにわたしたちを導きます。
イエスを信じるということを自分のいちばん深いところに置く、そしてそこから出発して、愛することを試みる。それが大切なことだと思います。なぜなら、わたしたちの心は愛し続けるにはあまりに弱いからです。わたしたちの心は変わりやすいものだからです。だから自分自身の努力からはじめるのではなく、イエスを「信じる」というところからはじめるのです。移ろい行くものを信じるのではありません。イエスを信じるのです。そこから掟を守ること、愛することがはじまっていきます。イエスを信じること、イエスの掟を守ること、イエスを愛することはわたしたちの中で深く結びついていて、切り離すことはできません。
イエスは今日のみ言葉を語るこのときに、ご自分がやがて弟子たちと切り離されてしまうことをよく知っていました。切り離されるそのときに、弟子たちがどれほど深い恐れと混乱に陥ることになるのか、そのこともイエスは知っていました。弟子たちが頼りとする指導者イエスが不在となってしまうときが、やがて訪れる。だから16節にあるように、イエスは父なる神にひとつのことを願います。すなわち「別の弁護者が遣わされること」を。イエスも弟子たちにとっては弁護者でした。弟子たちを助け、弟子たちのために語ってくれる存在でした。そのイエスとは別に、新たな弁護者である聖霊が与えられるのだそうです。だからイエスがいなくなってしまったとしても、弟子たちは何の助けもなしに見捨てられることはありません。そのことをイエスはあらかじめ弟子たちに告げています。それほど深くイエスは弟子たちのことを心配し、配慮しているのです。
今日は読まれませんが、福音書のこの先、14章26節を読みますと、聖霊が何をしてくれるのかということが記されています。聖霊はすべてを教え、イエスが話したことをことごとく思い起こさせてくれる、とあります。わたしたちが思い出すべき言葉は何でしょうか。今日の福音書の中からそれを取り出すなら、イエスの掟、愛するという掟を守れということ、そしてそれがイエスを愛していることの証しになるのだということです。
わたしたちは気の合う人、好きな人を愛することはできます。では、きらいな人を愛することはできるでしょうか。あるいはわたしのことをきらっている人を愛することはできるでしょうか。あからさまにわたしを軽蔑する、そのような人を愛することはできるでしょうか。わたしたちがイエスを根拠として愛するということは、そのような問いにぶつかるということです。そしてそのような問いから逃げないということを意味します。愛するということは決してたやすいことではありません。人を選んで愛することならできます。しかし目の前に現れるすべての人を愛するのはむずかしいことです。むずかしいけれども、そのことをしなさいとイエスは語ります。今日のみ言葉にあるように、わたしたちはイエスを愛し、互いに愛し合うことの中にとどまりたい、そう願います。
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