聖書の黙想(榛名聖公教会)
今日の福音書として選ばれているヨハネによる福音書はわかりにくいという声を聞くことがあります。その主たる原因が今日読まれた冒頭の個所にあるのではないかと思います。ほかの福音書にはクリスマスのお話として三人の博士や羊飼いが出てくるのに、ヨハネによる福音書は「初めに言があった」などとはじまるからです。よくわかりません。「ことば」という字も漢字二文字ではなく、漢字一文字で、特別な意味がありそうなのですが、よくわかりません。そのあとに言が神とともにあり、言は神であり、万物は言によって成ったと書いてあります。これはいったい何のことなのでしょうか。
まず「言」を「イエスさま」に置き換えて読んでいただきたいと思います。そうすると、イエス・キリストがこの世の初めから神とともに、神にとても近い存在としてあったこと、すべてのものの創造に責任を持っていること、が書かれているのだとわかります。ヨハネによる福音書の冒頭にあるのは、ヨハネによるイエス・キリストの紹介、ということができます。
ヨハネはイエスさまのことを「言」と記します。この字を「ことば」と読みます。「ことば」とは、わたしたちが何かを表すときに用いるものです。ここでイエスさまはわたしたちに何を表してくれるのでしょうか。それは神のお考え、神のみこころであるとわたしは考えます。それをわたしたちに教えるために、伝えるためにイエスさまは存在するのだということです。
神のみこころを伝えるイエスを、ヨハネは「光」であるとわたしたちに紹介します。「光は暗闇の中で輝いている。暗闇は光を理解しなかった」とあります。この世を照らす光として、神のみこころを伝えるために来てくれたイエスだったけれど、人間はそれを理解することができなかったということです。ヨハネは「闇と光」、「この世と神の世界」というようにふたつのものを並べてわたしたちに示す方法をとります。どちらがいいですか、というように。それもあまりむずかしく受けとめず、光と闇だったら光のほうがいいかなあという程度に受けとめてもらえればいいとわたしは考えています。
ヨハネによる福音書にはイエスと光が結びつけられる個所がいくつかあります。「わたしは世の光である。わたしに従う者は暗闇の中を歩かず、命の光を持つ」という個所もあるし、「光の子となるために、光のあるうちに、光を信じなさい」という言葉もあります。イエスが光であるだけでなく、わたしたちも光を帯びるように、光の子となるようにと語られています。
光であり、神のみこころであるイエス・キリスト、そのイエスさまについて大切なことが14節に語られています。「言は肉となって、わたしたちの間に宿られた」と書いてあります。「肉となって」という表現をわたしたちは今あまり使わないからとまどいもおぼえるのですが、「肉となる」とは、人間の姿をとって、いのちをまとって、ということです。クリスマスの話を何も書かないかのように見えるヨハネですが、この個所がヨハネなりのクリスマスであると言ってもいいでしょう。
「神のみこころ」という、目に見えない神さまの気持ちが、はっきりと目に見えるかたちでわたしたちの前に現れたということです。遠くで光り輝く存在なのではなく、わたしたちの日々の暮らしの悲しみや苦しみ、不安の只中に生き生きと息づくものとしてイエスさまが与えられたということです。
イエスさまが「ことば」というものにとどまれば、それは文字の中の存在にすぎません。紙のような平面に記されて、そこにとどまるものにすぎません。しかし平面を飛び出して立体のかたちをとって、しかもいのちあるものとして、神さまの気持ちを生き生きと伝えるものとして、わたしたちに近づき、わたしたちの間で生きるのです。
「肉」という言葉は聖書の中ではあまりいい意味で使われることはありません。肉であることは過ちを犯す弱さとつながります。また肉をまとうということは、人間としていつかは滅びる運命にあること、限界のある存在であることを示します。ヨハネがわたしたちに伝えるのは、神に等しい存在であったイエスさまが、限界ある人間の姿をとってでもわたしたちに近づきかかわりを持とうとしてくださるのだということです。自らの光が消えることがあってもいい、自らが闇に赴くことがあってもいい、それでもわたしたちにかかわろうとしてくださる方なのだということです。そのことをわたしたちは忘れずにいたいと思います。そして、そのような方がたしかに与えられたのだということを、このクリスマスの日に、ともに喜びたいのです。
不思議なことに、わたしたちが優れた者であるからイエスさまが与えられたのではありません。わたしたちがいつも光の道をはずれて闇をさまようような者であることもよくご存じです。そのことをよく知りながら、なおわたしたちのためにキリストを送ってくださる神さまです。そこに神の不思議な愛があります。
暗い海を行く船を導く灯台の光のようなイエス・キリスト、その光に従いながら、できることならばわたしたちは、イエスさまから受け取った光を暗闇のあるところにもたらす、そのような者として生きたいと願います。
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