聖書の黙想(榛名聖公教会)
今日から教会の暦は新しい一年を迎えた。聖霊降臨後の主日が長く続いたが、今日から降臨節。クリスマスを待ち望むときとなった。新しい一年は主にマルコによる福音書を読むことになる。きょうはマルコによる福音書の半ば、13章のイエス・キリストのみ言葉が選ばれている。
今日のこの短い箇所に、「目を覚ましていなさい」という言葉が３回出てくる。「目を覚ましているように」という言葉も含めれば、「目を覚ます」ということにかかわる言葉は４回も出てくるということになる。
33節にある「目を覚ましていなさい」という言葉は、もとの言葉では「眠るな」という意味を含む。神学生だったころ、校長先生と学生５人でひとつのテーブルを囲み向かいあって授業を受けていたのだが、よく眠りこけてしまっていた。仲間からは「大胆な」と言われていたが、大胆でも何でもなく、眠いだけで、先生にはほんとうに申し訳ないことをしてしまった。そんなわたしとしては、「眠るな、目を覚ましていなさい」と言われれば、「はい」と答えるほかない。眠るべきではないときに眠りこけるのは、よくない。
しかし今日のこの言葉は、日常生活の中で不注意に眠りこけるなというようなことを言っているのだろうか。そうではないと思う。だとすると、わたしたちはどんなときに、何のために目を覚ましていなさいと言われているのだろうか。
わたしたちは今、クリスマスを待ちながらここに集まっている。今はそういう時期。そのほかにもわたしたちが待ち続けていることがある。一年中いつでも待ち続けていること。それは、復活し天に昇っていったイエスがふたたびわたしたちのところにもどって来てくださる時。そのときをわたしたちはずっと待っている。もう2000年ほども待ち続けているので、緊張感もなく、何をいまさらと言われてしまうかもしれないのだが、わたしたちは待ち続けている。再びイエスが来てくださり、わたしたちが神と相まみえ、今の世界が終わり、新たな世界がはじまる、終末と呼ばれる時を待っている。今日の特祷の中にもそのことが祈られていた。
新たな世界のはじまりはいつ起こるのか。残念ながらそれはだれにもわからない。それがわかる、という人がいたら、それはうそ。だれにもわからない。だから、それがいつ起こってもいいように目を覚ましていなさい、という言葉がある。いつ起こるのかわかっているなら、その時まで寝ていればいいようなもの。
34節に「それはちょうど、家をあとに旅に出る人が、僕たちに仕事を割り当てて責任を持たせ、門番には目を覚ましているようにと言いつけておくようなものだ」とある。旅に出る人は神を表し、仕事を言いつけられる僕はわたしたちを表す。わたしたちは神から責任ある仕事を任されているのだとこの34節は語る。わたしたちが任された仕事に責任を持ってかかわりつづけるためには、目を覚ましているほかない。
その仕事を続けること。世の終わりがいつ来るかなどと心配することではなく、神から与えられた責任を果たすこと。それがわたしたちにとっては大切なこと。それでは、わたしたちは神からどのような責任、どのような仕事を任されているのだろうか。
仕事の内容は、聖書を読めばそこにたくさん出てくる。たとえばそのひとつを取り上げれば、それは互いに愛しあうということ。それも、好きな人だけを愛するのではなく、知っている人だけを愛すればいいのでもない。あなたが「あの人はきらいだ」と思う人のことも愛することができるか、とわたしたちは神に問われている。きらいな人のことも心配すること、それが愛するということの内容であり、わたしたちの仕事ということになるだろう。
また、旧約聖書の天地創造の物語を読むと、そこでは神がこの世のすべてのものを「よいもの」として造られたと書いてある。すべてはよい。天地創造のときに造られた最初の人は、神が造ったよい世界を「耕し、守るように」と神に命じられている。すべてのよいものをよいものとして守ること、それもわたしたちの仕事となる。この世界をよいものとして守ること。先ほどお話し申し上げた「きらいな人」も、神が造った「よいもの」に入るはず。その人もまた、わたしたちが守るべき人。その人を守るのがわたしたちの責任ある仕事。
わたしたちが「あんな人はいないほうがいい」と思う人も、「あの人は足手まといで困る」と思う人も、すべて神が造った「よいもの」。すべての人、すべてのものをよいものとして受け入れ、まもることができるかどうか、そのことを、わたしたちは神から任されている。その仕事を忠実に続けなさい、と言われている。「目を覚ましていなさい」という言葉は、神に任された仕事を忠実に続けること、放り出さないことを表すとわたしは思う。
わたしたちのような中途半端な人間に、神は仕事を任せてくださる。それはとても不思議なこと。わたしたちになぜか責任ある仕事を与えてくださる。わたしたちのこの教会に、神は神の仕事を任せてくださっている。たとえばそれが「愛する」という仕事。「愛する」という神から任された仕事を、わたしたちはどこまで続けることができるだろうか。それが今日の福音書を通してわたしたちに与えられている問いかけ。「目を覚ましていなさい」という言葉の裏にあるのは、神から与えられた仕事を続けなさいということ。わたしたちはみんなでそのことを考え、試し続けたい。
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