聖書の黙想(榛名聖公教会)
今日の福音書の最後にこのような言葉がある、「二人または三人がわたしの名によって集まるところには、わたしもその中にいるのである」。朝夕の礼拝の最初のところで聖書の言葉を唱えていいことになっているのだが、今取り上げた箇所はそのひとつとして選ばれている。だからわたしたちにはどこか親しみのあるみ言葉と言うことができる。また祈祷書の諸祈祷の中に、ヨハネ・クリソストムという人の祈りがあり、その中に次のような言葉がある。「あなたはみ名によって心を一つにする二人または三人に、み心にかなう願いを遂げさせてくださると約束されました」。そのような言葉があるので、わたしはこの「二人または三人がわたしの名によって集まっているところ」というのは、人々が集まってお祈りをしているところだと、なんとなく考えていた。
ところが今日の福音書を読むと、どうもそうではないということがわかる。今日のイエスのみ言葉がわたしたちに示している場面がどのようなものかというと、裁判のようにだれかとだれかが争わなくてはならない、そのような場面についてイエスが語っているということがわかる。
だれかがあなたに対して罪を犯したのであれば、行って二人だけのところで忠告するようにと最初のところに書いてある。「忠告」と聖書にはあるが、もとの言葉では「戒める、罰する」という言葉が使われていて、より厳しく相手に接するようにと勧められていることがわかる。
それでことが済めばいいのだが、あなたは罪を犯したと相手に告げても、相手が「そんなことはしていない」あるいは「あなたのほうこそ罪を犯している」と答えるかもしれない。そうなると二人のあいだに争いが起こる。二人で解決できなかったらどうするのか。
そのことがそのあとに書いてある。一人か二人、新しい人にあいだに入ってもらって証人になってもらうようにとある。だから、「二人または三人が集まる」という言葉が表すのは、集まってみんなで祈るというよりも、話し合いがこじれて証人が必要となる、そのような状況が記されているのだとわかる。
そしてそれでもだめだったら、教会に申し出るようにと書かれている。二人の対話からはじまったものが段階的に複雑になってくる、その様子が記されている。
そしてそのいちばん最後のところに、「もし心をひとつにして求めるなら神はそれをかなえてくださる、なぜなら、二人または三人がわたしの名によって集まるところには、わたしもそこにいるのだから」というイエスの言葉がおかれている。
わたしたちが心をひとつにして何を求めるのかといえば、それは問題の解決。聖書の言葉がわたしたちに示しているのは、問題の解決をいいかげんなところであきらめるなということ。二人で話してだめならば一人二人入ってもらいなさい、それでもだめだったら教会にはなしを持っていくように、と解決に向かう道筋が示されている。相手がわかってくれないからと途中でうやむやに終わるようなことを聖書は示していない。
「解決」と表現すると固くなるが、二人の人のあいだの和解、あるいは関係の回復ということが語られている。もっとくだけば「仲直りする」ということになるだろう。二人の人が罪ということをめぐって本当に和解すること。
人と人とが対立することはよく起こることだが、和解への道のりは困難を極める。和解することなど、どれだけ時間をかけても無理ではないかと思うような対立が存在する。
今日の福音書の中で、イエスはわたしたちに大きな権威を与えると告げている。そのことが18節に記されている。「はっきり言っておく。あなたがたが地上でつなぐことは、天上でもつながれ、あなたがたが地上で解くことは、天上でも解かれる」。神に等しい力がわたしたち人間に与えられるという約束の言葉。神ならぬわたしたちに大きな力が与えられるのだが、わたしたち人間はそれを受けとめることができない、あるいは何が与えられたのか理解することができない。そしていつの間にか、与えられたものはわたしたちに指のあいだをすり抜けて落ちているかもしれない。
そのようなわたしたちが和解を求めてあきらめるのでもなく、怒りを爆発させるのでもなく、逃げるのでもなくとどまり続けるためには、大きな努力が必要とされる。そしてわたしたちが問題に取り組もうとするときに、そこにイエス・キリストを必要とする。わたしたちの努力だけではどうにもならない。キリストがそこにいてくださるから、かろうじてわたしたちに和解の道が開かれる。
わたしたちが和解に至る道はそのようなものでしかないと思う。そう考えると、はじめに申し上げたわたしの勘違いもあながち勘違いでもないかと思われる。二人または三人が集まっている場面を、わたしはみんなで祈っているところであると思っていた。和解を求め、しかし途方にくれてわたしたちが集まるときに、そこには祈ることしか残されていないと思うから。イエス・キリストがそこにいてくださるようにと、そこで真剣に祈るほか道はない。
和解を求めるわたしたちに、祈りを通してかろうじて道が開かれる。キリストが真ん中にいてくださるから、そして道を開いてくださるから、わたしたちはそこを通ることができる。仲直り、和解ということは、かたくななわたしたちの努力だけではどうにもならない。だから、祈り求めること。そのことを今日のみ言葉から学びたい。
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