聖書の黙想(榛名聖公教会)
復活節のあいだ、わたしたちは主イエス・キリストの復活のできごとを記した福音書を読む。イースターがめぐってくるとわたしたちは「イースターおめでとう」とあいさつを交わすが、福音書の復活のできごとを読むと、はっきりと「おめでとう」と言えるようなできごとが実は少ないことに気がつく。今日の福音書はどうだろうか。
今日の福音書に記されているのは、復活の当日のできごと。二人の弟子が、イエスが処刑されたエルサレムからエマオという町にでかける。イエス・キリストが十字架の上で死んでから三日が過ぎていた。二人の弟子は、エルサレムでのイエスの最後について、道々語り合っていた。そこに一人の人が現れ、旅の道連れとなる。二人の目はさえぎられていて、相手がだれだったのかわからなかった、と聖書は記している。この人もまたエルサレムにいたはずなのだが、三日前にエルサレムで起こったことをまったく知らないらしい。イエスのことを好きだったかどうかは別として、あれだけ大きな話題になったできごとを知らないとはいったいどういうことか。しかしとにかく知らないのであれば、説明をしなければならない。弟子たちは説明をはじめた。
弟子たちの胸には、自分たちの敬愛する指導者が失われてしまったことをわかってほしいという気持ちがあったことと思う。一人の人が殺されたということにとどまらず、殺されたイエスという方がどのような方であったのかということも弟子たちは語った。弟子たちはイエスのことを、自分たちユダヤの民を解放に導く預言者ととらえていた。たしかに預言者として人々を導く働きも、イエスの中にはあった。しかしそれだけではなかった。ユダヤの民だけでなく、すべての人を解放に導く救い主であるということまでは、弟子たちにはわかっていない。目の前にいる方がだれなのかということもわかってはいない。イエスを目の前にしながら何もわからない弟子たちの姿は、わたしたち人間の姿をよく表している。
復活のできごとを記す今日の福音書の中からわたしたちに明らかにされているのは、弟子たちにはイエスの復活ということがまったくわかっていないということ。復活のできごとの只中にいながら、何もわかっていない。したがって、喜びのかけらもない。
25節を読むとそこには、何もわからない二人の弟子に対するイエス・キリストの言葉がある。「ああ、物分かりが悪く、心が鈍く預言者たちの言ったことすべてを信じられない者たち」とイエスは告げる。かなり厳しい言葉が向けられている、しかし、物分かりが悪い弟子たちを前にして、「物分かりが悪いあなたがたは、弟子をやめろ」とは言わない。物分かりが悪い者たちにわかるようにと、ご自分のことを説明しはじめる。弟子たちを切り捨てるようなことは、決してしない。
このときのことをあとで振り返ったときに二人の弟子は、「わたしたちの心は燃えていたではないか」と語り合う。イエスが説明をあきらめていれば、弟子たちの心は燃えることもなかった。イエス・キリストがあきらめずにかかわりを続けてくださったからこそ、弟子たちの心は燃えるような気持ちに変えられた。
あとで気がつけば、見知らぬ男の説明に耳を傾けていたときに心は燃えていたと気づく。しかし一緒にいるときには、目の前にいる人がイエスだとは気づかなかった。
エマオの先になおも旅を続けようとする男を何とか引きとめたが、それも相手がイエス・キリストだと気づいたからではなかった。もう夕方で、これから先の道は真っ暗になってしまうからだった。食事の席でパンを裂くイエスの姿を見たときに、初めて気がついた。どこかでイエスとパンをわかちあったことがあったのかもしれない。しかし気がついたときにはイエスの姿はない。
これが復活の日に、弟子たちの身に起こったこと。何もわからない。そして、わかったときにはイエスは消えている。弟子たちにとって復活のイエスとともにいる喜びはひとかけらもなかった。ただ、あとで思い起こしてみると、一緒にいるときにたしかに心は燃えていた。それがこの二人の弟子が経験した復活のできごとだった。
わたしたちが今日心に留めたいのは、物分かりの悪い弟子たちに、あきらめることなくかかわろうとするイエス・キリストの姿。厳しい態度で臨んではいるが、あきらめることはない。それがあったから、弟子たちの心は燃えた。そして、いったん燃えるような心を味わった弟子たちは、今度は自分たちがあきらめない者となっていった。あきらめることなく、燃える心を誰かに伝える者となっていった。「イエスは死んだのではない。生きていた！」と伝えに走る者となった。弟子たちは変えられた。イエス・キリストとの出会いはわたしたちの人生を豊かに変える。
そしてイエスはいつも、わたしたちが思うところにはおられない。なおも先へ行こうとされるのがキリストの姿。先へ先へと旅を続ける。「ここにいるだろう」とわたしたちが思うところにはいない。「ここにいてほしい」とわたしたちが願うところにもいない。いつも、わたしたちが思うよりも先を歩んでおられる。先立つイエスに従いながら、わたしたちもまた、燃える心をもって伝える者として歩みたい。
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