聖書の黙想（栃木聖アルバン教会）
今日の福音書がまず語るのは、大きな石で組み立てられた立派な神殿があり、それをほめたたえる人々に対してイエス・キリストが語る言葉。わたしたちが目にする偉大な光景が崩れ去るときが来る。わたしたちが、この建物だけはなくならないと思っている、あるいは願っている建物が、跡形もなく消え去るときが来る。建物のことだけではない。わたしたちが失いたくないと思う大切なものがなくなることがある。それは人である場合もある。大切な人が、どうして今この人が、と思う人が天に召されることもある。わたしたちが拠り頼むものが崩れるときが来る。そのようなことが避けようもなく、わたしたちの人生には起こる、そのことをイエスはわたしたちに語りかける。
だとしても、それがこの世の終わりというわけでもない。聖書が語る「この世の終わり」が来たとしても、それで終わりではない。わたしたちには、なお続くものがある。もうだめだ、すべてが終わったと思うそのときに、なおその先に続くものがある。
先ほど申し上げたように、この世のものはすべて消え去る。かたちあるすべてのものはなくなる。それだけではない。わたしたち神を信じる者にとっては非常にややこしいことに、神を信じることによってかえって人と対立することもある。そのことをイエスは続けて語る。神を信じなければ何の意見も持たないから、人と対立することもないかもしれない。信じるものがあるから、信じるもののために意見が対立するということが起こり得る。裏切られ、殺されるということも、神を信じるがゆえに起こるかもしれない。それはイエス・キリストの生涯にも起こったこと。神を信じるがゆえに、イエス・キリストは人々のあざけりの中で殺されることになった。すべての人に憎まれるということも起こり得る。それもイエスの死がわたしたちに示すこと。
それはおそろしいこと。そのような言葉のいったいどこに福音があるのかと思うようなこと。
しかしそこで終わりではない。イエスの言葉には続きがある。「あなたがたの髪の毛一本も決してなくならない」という約束が、神からわたしたちに与えられている、とイエスは語る。わたしたちが肉親や友人からも裏切られ、孤独の中に落とされ、命すら危うくなるそのときに、しかしわたしたちは髪の毛一本すら失うことがない、とイエスは語る。イエスの言葉は神の守りということに関係する。そして、命が危うくなるだけではなく、命を落とすことになったとしても、あなたがたの髪の毛一本すらも損なわれることはないのだ、というのが、イエス・キリストの語るところ。死によっても何も損なわれない、そのような関係と守りの中にあなたがたは置かれているから。わたしたちの前にはイエス・キリストの約束の言葉が置かれている。
そのような約束があれば、どんなにおそろしいことが起こっても生きていくことができるだろうか。そうではない。イエスは今日の最後のところで、「あなたがたは命を勝ち得なさい」と語るのだが、その前に、「忍耐によって」とつけ加えている。忍耐すること。神のために忍耐すること。信じるもののために忍耐すること。神の世界が、ほんとうの世界が来ることのために忍耐すること。忍耐のうちに待ち、祈り、行動すること。裏切りがあり、関係が断たれる危険があり、命の危険がある。命を失うこともあり得る。この世の終わりかと思われることが起こっても、わたしの人生が終わるときが来ても、そしてまたこの世の終わりがやってきたとしても、そこで終わらないものを神はわたしたちに用意していてくださる。だからわたしたちは、今いるこの場所で、神のために、忍耐が必要なら忍耐しながら、働きを続けたい。
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