聖書の黙想（下館聖公教会）
きょうの福音書には、イエス・キリストから弟子たちに向けての配慮の言葉が記されている。このあとご自分が弟子たちと別れなければならないこと、人々に捕らえられ、十字架の上で死ななければならないことがイエスにはよくわかっていた。しかし弟子たちは何もわかっていない。予告の言葉を聞いているはずなのだが、何も知らず、何もわからない弟子たち。弟子たちにとって別れは突然にやってくる。だからその前に、突然の別れが起こったとしても心配しなくてもいいのだという配慮の言葉を、イエスは弟子たちに残す。
きょうの福音書のはじめのところでイエスは次のように語る。「わたしを愛する人は、わたしの言葉を守る。わたしの父はその人を愛され、父とわたしとはその人のところに行き、一緒に住む」。「わたしを愛する人はわたしの言葉を守る」、という言葉は、イエスを信じ愛する人は、イエスの言葉を守る、ということ。人間とイエスが愛によって結ばれるのだということが語られている。イエスを愛するその人は、神に愛される存在にもなる。そして「父とわたしとはその人のところへ行き、一緒に住む」というイエスの言葉が続く。「一緒に住む」という言葉をわたしは今まで、「いっしょにいる」という意味に読んでいた。しかし英語の聖書でこの個所を読んでみると、一緒に家庭を作る、家族になるという意味の言葉が用いられている。「いっしょにいる」ということよりもさらに踏み込んだ、親密な、とても近い関係が語られている。わたしたちは神そしてイエス・キリストと、それほど近いところに立つようにと招かれている。
いつも申し上げることなのだが、わたしたちはなぜそのような親密さの中に招かれるのだろうか。招かれるにふさわしい価値や能力がわたしたちの中にあるのだろうか。そんなことはない。価値や能力があるから招かれるのではなく、そのようなものが一切ないにもかかわらず、わたしたちは招かれる。たいへん不思議なことに、わたしたちは招かれる。神そしてイエス・キリストとの深い親密なつながりの中へと、わたしたちは招かれる。
しかしこのとき、イエスは弟子たちに別れを告げているところでもあった。まもなくわたしたちは引き離されなければならない。しかし弟子たちにはそのことがわからない。わからないから、別れが突然訪れるときに弟子たちはうろたえ、逃げ出し、不安にかられる。そのこともイエスにはよくわかっている。だからイエスは弟子たちの不安を少しでも軽くするために語りつづける。
弁護者がやってくる、とイエスは弟子たちに告げる。この「弁護者」という言葉はヨハネによる福音書に何回か登場する。そしてそれは聖霊という名前でも呼ばれている。イエスがいなくなり、わたしたちが言葉を失うそのときに、わたしたちに代わって言葉を語るもの、わたしたちを助けてくれるもの。それが弁護者。イエス・キリストがいなくなることが弟子たちを絶望に導くのではなく、絶望のように見えるときに、なおわたしたちを支えるものが与えられる。
聖霊は何をするのか。26節に「わたしが話したことをことごとく思い起こさせてくださる」とある。「思い起こさせる」のが聖霊の働き。思い起こさせるとは、思い出させるということ。聖霊の助けによってわたしたちはイエス・キリストを思い出す。わたしたちに日々の生活の中で力を与えてくださるのは、イエス・キリスト。イエス・キリストを忘れないこと、イエスを思い出すことを通して、わたしたちはキリストの力にあずかる。思い出すことがわたしたちにとっては大切なこと。それを聖霊が助けてくれる。
きょうわたしたちが集うこの礼拝も、毎週毎週イエス・キリストのことを忘れないように、思い起こすことのために行われている。教会の長い歴史の中で、途切れることなく、キリストを思い起こす礼拝が毎週行われてきた。きょうのこの礼拝の中にも聖霊が働き、わたしたちがイエスを思い起こすことを助けてくれている。ともにパンをわかちあい、ぶどう酒をわかちあう中で、イエス・キリストをもう一度新たな気持ちで思い起こしていく。パンはキリストのからだ、ぶどう酒はキリストの血。ご自分のいのちを分け与えようというのがイエス・キリストの気持ち。イエス・キリストが分け与えてくださるいのちによって、わたしたちは生かされる。割かれたイエスのからだがわたしたちを生かすということを、わたしたちは思い起こしていく。
この場所で、2000年前だけでなく、今もイエス・キリストがいのちを分けてくださることを、今を生きるわたしたちにいのちを与えてくださることを思い起こす。忘れないようにする。キリストの愛に結ばれたわたしたちは、キリストのいのちを分け与えられ、元気になってこの場所から出て行く。そしてキリストの愛をだれかとわかちあうために働く。だれかを愛し、だれかを心配する、そのような働きにわたしたちはつらなる。だれかを愛し、心配するような仕事は疲れるもの。疲れたら一週間後にまたここにもどってくる。そしてキリストのいのちをいただき、元気になってまた出て行く。自分のためにここにもどってくるのではない。キリストのためにもどってくる。キリストのために働く、そのことのためにもどってくる。そしてまた出て行く。
イエス・キリストだけがわたしたちを生かし、わたしたちを深く結ぶことを忘れないこと。そこからわたしたちの毎日をスタートさせたい。
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