聖書の黙想(下館聖公教会)
先週からぶどう園のたとえが続いている。それは来週の福音書にもつながっていく流れなのだが、「ぶどう園」という場所は、特に旧約聖書の世界の中では、特別な意味を帯びている。ぶどう園があり、そこに豊かに実るぶどうがある。それは神の愛を表す。神はぶどう園をよく整えて、そこに豊かな実りを実現する。その豊かな実りが、神からわたしたちに与えられる豊かな愛を示すものとして語られてきた。「ぶどう園で働く」ということは神の働きに連なることを示すと考えることができる。
脱線するが、今日のこの箇所はギリシャ語で聖書を読むときにとても有名なところ。その昔、まだコピー機や印刷機がないころに聖書は生まれた。そしてそれはコピーや印刷という技術を使わずに部数をふやしていった。どこかの教会に聖書があるのを見てそれを手に入れたいと思った人は、それをすべて書き写した。そのようにして生まれた聖書を写本と呼ぶのだが、写本を書き写してまた新しい写本が生まれる、ということが次々に起こっていった。この努力があったから、今わたしたちは聖書を手にすることができる。この努力がなければ、聖書はどこかで歴史の中に見失われてしまっていたはず。
このように写本を作るという努力はたいへんすばらしいものだったのだが、人間のすることだから失敗もまた伴う。どこかで写しまちがえるということが起こる。写しまちがえたものをまた書き写すから、まちがいは知らぬ間に広がっていく。それが今日の箇所で起こっている。兄と弟が登場するが、最初に登場するのが「兄」となっている写本と「弟」となっている写本の両方が、どちらもかなりの数残されている。ということは、まちがいはかなり早い時代に起こり、それがどんどん広まってしまったということ。今ではどちらが正しいのかを決めることはできなくなってしまった。
脱線はそこまでにしてもとにもどりたい。まず今日のこのたとえがだれに向かって語られているのかということを見ておきたい。今日選ばれた部分には記されていないのだが、イエス・キリストはこのたとえをユダヤ教の指導者たちに語りかけている。「あなたたちはどう思うか」と。
たとえそのものはたいへんわかりやすい。いやです、働きませんと言ったけれど結局ぶどう園に行って働いた兄と、やりますと答えたけれど結局のところ働かなかった弟、このどちらが父親の望みどおりのことを行ったかと聞かれれば、答えはすぐにわかる。なぜこのように答えが明らかなたとえを持ち出して問いかけるのかと思う。わざわざ確認をしている。このようなやりとりの裏に、イエスからユダヤ教の指導者に向けられた批判の思いがこめられている。
あなたたちは今までどうして来ましたか。あなたたちの長い歴史の中で、何をしてきましたか。神が望むことをしてきたでしょうか。そうではないでしょう。あなたがたは神に背くことばかりしてきた。旧約聖書の時代に神に背く行いがあると、そこに預言者が現れた。そして神に立ち返るようにと批判の言葉を投げかけた。あなたたちはその預言者の言葉を聞いただろうか。聞かなかったではないか。あるいは、「わかりました。言われたとおりにします」と返事をしておきながら、実際には言われたとおりにしなかったではないか。
そこのところで、今日のたとえの弟の姿と重なることになる。たとえばなしを聞くときに弟の姿を理解しているが、しかし実際にあなたたちがしていること、してきたことは理解していないではないか。あなたがたはこのたとえの弟にそっくりなのだ。それがイエス・キリストがたとえに託して語ったこと。
それだけの話として読んでしまえばイエス・キリストとユダヤ教の指導者の間のやりとりだから、わたしたちには関係なく読んでしまうことができる。しかしイエスの批判の言葉はわたしたちにも向けられる。あなたたちはどう思いますか。あなたたちは神のぶどう園に行き、そこで働いているのだろうか。たしかにそうしているとわたしたちは思っている。だからこそこうして教会に集まって礼拝をし、教会のことをみんなで考えている。それがわたしたちの言い分になるのだが、それに対してイエスから、「それが神の望みどおりのことなのだろうか」という言葉が投げかけられる。神はそもそもわたしたちに何を望んでいるのだろうか。神がほんとうにしなさいと言っていることは何なのだろうか。
たしかに教会の建物を守ること、仲間を守ることも大切なのだけれど、神がいちばんに願うことはわたしたちがイエス・キリストを、そして神を伝えていくこと。それをどこまでしているだろうかとイエスはわたしたちに問いかける。今日の福音書の言葉はわたしにはそのように響いてくる。神がぶどう園のぶどうを収穫してほしいと願っているときに、わたしたちは目を上げて豊かな実りを見るかわりに自分たちの足元を見、そこにある雑草を抜いているのかもしれない。
神の思いがどこにあるのか、神はわたしたちに何を望んでおられるのか、そのことをみんなで考えたい。
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