聖書の黙想(栃木聖アルバン教会)
今日の物語は来週の福音書とつながっていて、来週の物語とあわせて読まれるべきもの。そしてそのふたつの物語にまたがって登場するのが、ペトロという弟子。このペトロは今日のこの福音書の中で、イエス・キリストから高い評価を受けるようなことを言う。いったいイエスとは何者なのか、みんなはわたしのことをどのように考えているのだろうかとイエスが弟子たちに尋ねる。弟子たちは今まで耳にしたさまざまな答えをイエスに答える。預言者あるいは洗礼者ヨハネだといった意見があった。それは部分的にはあたっているということができる。がしかし、一言でわたしを語るとしたら何という言葉になるのか、そのことをイエスは弟子たちに問いかける。
それに対してペトロが答えた。「あなたはメシアです」。メシアという言葉はユダヤ教を信じるユダヤ人たちにとってとても大切な言葉。自分たちを外国の支配から解放し、自分たちの国を回復してくれる存在。そのメシアを、人々はもう何百年も待ち続けていた。あなたこそがそのメシアなのだとペトロは一言で答えた。さらに続けてペトロは、「あなたは生ける神の子です」とも答えている。あなたと神とは非常に近い。そして神は生きているのか死んでいるのかわからないような存在なのではなく、生き生きとしてわたしたちのあいだで働きを続ける方なのだ。そこまでペトロは答えた。
イエスはその答えを聞いてペトロを評価する。あなたはほんとうに正しいことを言った。だからわたしはあなたの上に教会を建てる、とイエスは語った。「あなたはペトロ」とイエスは声をかけている。この「ペトロ」という名前には「岩」という意味がある。しっかりと揺るがない岩であるあなたの上に、わたしは教会を築こう。あなたを教会の礎としよう。それほどまでにペトロの答えは正しかった。
しかしそのペトロが、来週の福音書の中ではイエスに厳しく叱られることになる。あなたは何もわかっていないということをみんなの前で厳しく告げられてしまう。ペトロがそのような人間であることをイエスはよく知っている。そのような人間でしかないことを知っている。あなたは揺らぐことも変わることもない知識と信仰とを手にした、などとイエスは思わない。揺らぐことのない人間だからあなたの上に教会を建てようというのではない。今はたまたますばらしい答えを返した。しかしこの次はどうなることやらわからない。そんなあなたでしかない。それはわかっている。けれどもそのあなたにわたしは教会の未来を託そうとイエスは言われる。
「そのようなあなたに託すのだ」ということが、今日のペトロにはわかっていない。「わたしは選ばれた」といった喜びに満たされていたかもしれない。ペトロが誇らしい気持ちでいたかもしれないそのときに、イエスはペトロが破れた人間であること、不完全な人間でしかないということをよく知っている。わたしたちはイエス・キリストの前でそのようなものでしかないということをよく自覚しておきたい。そして同時に、たいへんふしぎなことではなるのだけれど、「そのようなものでしかない」わたしたちをあえてイエスは選ぶのだということもまた、おぼえておきたい。
「あなたでいい」「あなたがいい」というイエスの選びを受けとめることができるのかどうか。イエスの言葉を前にしたときにわたしたちは受けとめるのだろうか、それとも「わたしはまだまだ未熟ですから」と辞退するのだろうか。
７月に読んだ福音書に次のようなたとえがあった。天の国はからし種のようなものだ。目に見えるか見えないかという大きさの種がやがて成長すると人の背丈を越えるような木に成長する。天の国は、あるいは神のみこころはそのようなもの。今は目に見えないようなものかもしれない。しかしいずれ膨らむときが来るのだ。それと同じことがわたしたちの中にも起こる、ペトロの中にも起こる、ということが今日の福音書に語られていること。だからわたしたちは託される。イエスの選びを受けとめることを許される。
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