聖書の黙想（小山祈りの家）
今日の福音書に記されているのは、二人の弟子が旅の途中で復活のイエスに出会う物語。この二人の弟子は、エマオという村に向かう途中、イエスの死と復活について自分たちが聞いていることを話し合っていた。おそらくは悲しみと驚きと、もしかしたらイエスの復活のしらせに対する疑いの気持ちも抱きながら。そこにイエス・キリストが現れて同行するのだが、弟子たちには目の前にいるのがイエスだとはわからない。「二人の目は遮られていた」と福音書は説明する。これが現実なのだろうと思う。復活のイエスに出会っても、復活のできごとに出会っても、目が遮られているから理解できない。わからない状態におかれるわたしたち。復活というできごとはわからない。大切なできごとだと教えられてはいるけれど、よくわからない。それは、わたしたちには神がわからない、ということと同じこと。大切な方だということはわかっているけれど、実のところ神のことはよくわからない。
洗礼を受けようかどうしようかと悩む人から、「まだわたしには神について知識が足りませんから」と言われることがある。たしかにわたしたちの中には、何かを信じるときにはある程度のことを知ってからでないといけないという思いがある。そうでないとだまされるかもしれない。知りもしないことを信じるなどというのは無責任のようにも思える。だからわたしたちは勉強する。
だが、勉強すれば神を理解することができるようになるのだろうか。わたしが神学校にて感じたことを正直に申し上げれば、わたしは学べば学ぶほどにわからないことが多くなっていった。ひとつのことを理解するとその先には二つの新たな疑問が浮かんでくる。そして新たな疑問のひとつに取り組んでいると、さらに新しい疑問がわいてくる。そんな気がした。
そしてわたしたちが先生たちの前に「わたしの神さまはこんな感じです」と提出すると、それはいともたやすく壊されてしまった。もう一度作るとまた壊される。「やさしい神さま」「厳しい神さま」と、いろいろなイメージを提出したが、いつも「そんなものでしかないのか」と壊されてしまったおぼえがある。そして、入学したときよりも卒業するときのほうが、実は神に対する疑問の数は多くなっていた。神はそのような存在だと、今は思っている。とことんつきつめて勉強すれば理解できるというような神ではない。わたしたちの手で捕らえ、分析し尽くすことができるようなちっぽけな存在ではない。つかまえたと思うとさらに大きなものとして立ち現れ、それをつかんだと思うと、さらに大きくふくらむ。結局つかまえることはできない。神はどんどん成長していくのだ、と考えることすらできる。神はひとつところにとどまりはしない。わたしたちにはつかまえることができない。それでいいのだと思う。そういうものなのだと思う。しかしつかまえることができなくて、それで何も起こらないということではない。
そのことが今日の物語の中によく現されている。31節、夕食の席でイエスが祈り、パンを裂いて渡してくれたところで、弟子たちには目の前の方がイエス・キリストであるとわかる。しかし、わかったとたんにイエスは目の前から姿を消す。たいへん残念なことに。弟子たちもまた、イエス・キリストをつかまえることができなかった。けれども、イエスの姿が見えなくなってそのままで終わりではなかった。「道で話しておられるとき、また聖書を説明してくださったとき、わたしたちの心は燃えていたではないか」と彼らは話し合っている。何も残らないわけではなかった。たしかにわたしたちの心は、ここ何日かの悲しみを忘れて燃え上がったではないか、と語っている。目の前にいるときにはだれだかわからなかった。そしてだれだかわかったとたんに姿が見えなくなってしまった。しかし心が燃えたという記憶は残っている。励ましを受けた心は、まだわたしたちの中にある。そのことはしっかりと残っている。何も起こらなかったのではない。
わたしたちは何も理解しないかもしれない。わたしたちには何も見えないかもしれない。そのようなわたしたちであるにもかかわらず、心を奮い立たせてくださる方がある。理解しない、見ることができない、見ようともしないわたしたちかもしれない。しかしそんなことにはおかまいなしに、神はイエスを通して一方的にわたしたちの心をはげましてくれる。
もうひとつ考えておきたいことがある。イエスを失った悲しみに暮れている弟子たちに、ここ数日に起こったこととは「どんなことですか」と尋ねているイエスがいる。死の悲しみなどもうとうに乗り越えているイエスの姿がある。夕方だから町で宿を取ろうとすれば、自分だけはさらに先に進んでいこうとするイエスの姿がある。わたしたちが思うところよりも先に進んでしまうイエス・キリスト。わたしたちに一歩先んじながら、わたしたちが理解するのを待ち、わたしたちの心を燃え上がらせてくださるイエス。そのような方が与えられている。なにもわからないわたしたちかもしれない。しかしそのようなわたしたちに、一歩先を歩むイエス・キリストから恵みが与えられている。いつも。そのことを、わたしたちは忘れずにいたい。
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