聖書の黙想（佐野聖公教会）
今週の福音書は先週の続きになっている。先週の福音書には、イエスが生まれ育ったナザレの町に行き、そこで礼拝に参加したときのことが書かれていた。イザヤ書という予言の書から神の救いについての個所を、イエスは読んだ。それはすなわちイエス・キリストの仕事の内容を説明してくれる個所だった。そして先週の福音書の最後のところでイエスは、「この聖書の言葉は、今日、あなたがたが耳にしたとき、実現した」と語った。あなたがたが待ち望んでいる救いは、今実現した。それは救いがイエスによってもたらされるということを意味していた。
先週の福音書の最後の言葉から、今週の福音書がはじまっている。救いがたしかに起こるという聖書の言葉は、イエス・キリストの登場によってすでに実現しているのだ、と聞いた人々は疑問を持つ。この男が救いをもたらすというのか？この男のことなら小さいころから知っている。あのヨセフの息子ではないか。あのヨセフの息子にいったい何ができるというのか。わたしたちを救うことができるのか。人々の胸にはそのような思いが生まれた。
人々の疑いに対してイエスは、「あなたがたは何か実際にしてみろと言うつもりだろう」と言葉を返している。それを見たらヨセフの息子であっても信じてやってもいいと考えているのだろうと。
そのあとイエスは旧約聖書から二人の人物を取り上げ、人々に話しはじめる。まずエリヤ、そしてエリシャ。この二人はユダヤの人々の国がふたつに分裂してしまったあとに登場した預言者たち。エリヤの仕事を受け継いでエリシャが登場した。この二人の仕事を取り上げているのだが、そこで預言者たちに助けてもらった人物は、どちらもイスラエルの人々から見たら外国人ということになる。サレプタという町のやもめは預言者エリヤをかくまい、わずかな食べ物を預言者に与えたために、大飢饉が起こった中で小麦粉と砂糖と油がいつまでもなくならないという奇跡を預言者から与えられた。
ナアマンという人はユダヤの北に位置するシリアの軍人。ユダヤの民がシリアに攻めていって撃退されたことがある。だから関係がいいとはいえなかったのだが、ナアマンが重い皮膚病にかかってしまったときにエリシャはこの人の病を癒した。
このふたつの話にこめられているのは、「ユダヤの民である」ということだけで自動的に救われると決まっているのだろうかという問い。このころのユダヤの人々はみな、自分たちはいつか必ず救い主に助けてもらえるのだと信じていた。しかも救い主が現れれば自動的に。なぜならわたしたちの神はユダヤの民だけを救ってくださる神なのだから。だから救い主が現れればそれでもうだいじょうぶなのだと思っていた。
イエスの話はそのような思いに冷や水を浴びせるようなものだった。ほんとうにそうなのでしょうか。救い主が現れさえすれば、ほんとうに自動的にユダヤの民は救われるのでしょうか。あなたがたが信じている預言者たちの話を読み直してみれば、そうではないことがわかります。預言者たちを通して与えられた救いは、ユダヤの民ではなく外国の人たちに与えられているではありませんか。なのにどうして、自分たちだけが救われると簡単に保証できるのですか。あなたがたの生き方次第では、救いはあなたがた以外の人々のところにもたらされるかもしれないではありませんか。
イエスはここで、「ヨセフの息子に何ができるというのか」という思いを問題としている。あなたがたの前に救い主は現れた。しかしその救い主を信じることができないのに、どうして救いがもたらされるというのか。神の立場に立ってみれば、救いの与えようがないではないか。そうであれば神はその救いを、あなたがたが異邦人と呼んでさげすんでいる外国に人たちにもたらすことになるだろう。
これが今日の福音書の物語を通してイエスが語っていること。みんながよく知っている預言者の物語の中から、イエスは問いかけた。ユダヤの人たちがあたりまえのことだと疑いもしないことに対して、イエスは疑いをさしはさんだ。だから人々は憤慨した。怒った人々はイエスを町の外の崖から突き落とそうとさえした。
信じるとはどういうことなのか、わたしたちは何を信じるのか、どのような神を信じるのか、ということが問題とされている。わたしたちが信じる神は心の狭い神ではない。ある国の人は助けるが、ほかの国の人は助けないというような神ではない。罪を犯した者は地獄に突き落とし、罪のない者だけを天国へと導くような神でもない。地獄と天国というものがあるとすれば、神は地獄のことは考えていない。神はわたしたちを天国に導くことしか考えていない。
それなのにたとえば「わたしたちは天国に行くことができるが、あのだらしのない者たちは地獄に落ちる」などと、勝手に、自分たちに都合のいいように決めつけて考えるのであれば、そのときわたしたちは神の思いからもっとも遠いところにいることになる。これがイエスがわたしたちに語ること。
わたしたちはどのような神を心に思い描いているだろうか。またわたしたちは自分のまわりにいる人たちを、どのような目で見ているのだろうか。
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