つながっている
フランシス秋葉晴彦
この3月に、前任地である茨城県下館の教会から東京に引っ越しました。いちばん重くて量も多い本は、一年前にすでに移してありました。だから楽な引っ越しかと思っていたのですが、そうは問屋が卸しませんでした。引っ越しというのは荷物の量によらず、しんどいものであると再確認しました。そして今わたしは、「寄る年波」という言葉をじっくりとかみしめています。
今までこんなことはなかったのですが、引っ越しの最中に右の膝を痛めました。いつからだったのかもわからないのですが、気がつくと、いつのまにか右膝をかばいながら歩いていたのです。そういえば、と思い出してみれば、寝ているときに右膝の上に何かが乗っていて膝を逆に曲げられているような感覚があり、眠りを妨げられたことがありました。そのようなことに思いあたると、右膝のおさらの内側のあたりが、「そうだそうだ」と言わんばかりに痛みます。引っ越しが終わればおさまるだろうと思っていたのですが、４月はじめになっても痛みはまだ健在です。むしろはっきりと存在を主張するようになっているような気もするくらいです。今までに経験したことがなかった不具合なので、これが年を取るということなのか、と少し落ち込みました。
しかし、落ち込むには少し早すぎたようです。右膝が痛まないようにとかばって歩いていたら、左足の甲が痛くなりました。何の関係があるのか、と首を傾げましたが、どうも関係があるようです。そのうち左の膝もなんだか痛くなってきました。やれやれです。こうなると歩くことそのものが苦痛になりますから、できるだけ歩かなくてすむ方法を、考えていないようで、実は頭の片隅で一日中考えるようになります。これまた、やれやれです。
冬場のゴキブリのように全体的に動きが鈍くなり、ただでさえ運動不足のからだが動くことを厭うようになってきます。なんだかいやだなあ、なんとかならないものかと思いながら机に向かって仕事をしていたら、何と右の腰まで痛くなるではありませんか。ここまでくると「人体の神秘」というようなことを考えます。からだの各部はそこまで深くつながっているのか、と感動に近い気持ちを覚えました。しかし実際には痛いのですから、感動には至りませんが。
感動こそしませんでしたが、感心はしました。微妙なものなんだね、と改めて自分のからだを見直しました。からだが痛くなるというようなことは、どこか一箇所だけが痛くなるのだと単純に考えていました。そうではなく、ひとつの痛みが別の痛みを呼び、といった具合に痛みと痛みがひとつのつながりの中に現れ、いつのまにか全体的に動きを封じられていることに気づく、そんなことが起こるほど、からだは複雑に造られているのです。そして複雑に造られているがゆえに、痛みへの対応もむずかしくなるのだということを痛感しました。
さらに蛇足。あちらこちらが痛み出したある日気がつきました。最近前屈運動をしていない。試みにからだを前に倒して指先を地面に近づけてみると、とても固くなっています。２週間など短い時間と思っていましたが、からだが変化するのに必要な時間としては十分な長さなのだ、ということにも気づかされたのでした。
５０年以上このからだとつきあってきたのですが、まだまだ新しい発見があるものなのですね。知らないところで部分と部分が微妙につながっていて全体に影響するという新しい感覚は、痛いけれど、おもしろいものでした。
知らないところでつながっていたということは、こうして榛名の教会報のために原稿を書きながら思うことでもあります。北関東教区に属していますが、自分が榛名の教会で働くことになるとは、あまり考えませんでした。３月にごあいさつのために新生会の施設をまわったときに、春光園の看護士さんに「最近はソバで倒れることはありませんか」と尋ねられました。ごめんなさい、こちらはお顔を失念していたのですが、３０年近く前のことをおぼえていていてくださる方がありました。３０年近く前のこと、大学を出てから、ボランティアとしてときどき榛名におじゃましていたわたしは、ソバ枕のそうじをしていてアレルギーのために呼吸困難に陥り、榛名荘病院で原衞先生に点滴をしていただいて命拾いをしたのでした。
そんなことで名を残しているのもいかがなものかとは思いますが、来ていきなり倒れるという鮮烈なボランティア・デビューをおぼえていてくださる方がいて、３０年近い時間を飛び越えてつながることができるうれしさを感じます。
思えばボランティアでおじゃましていたころには、将来教会のつながりで榛名で働くことがあるなどということも、考えつかないことでした。ひとつの場所に、そしてそこに暮らす方々に、自分がどのようにつながっていくのかということも、実は見えないことでした。見えないけれど、これも微妙につながっていました。自分の人生は自分で切り開いてきたなどと思うのは大間違い。自分では意識することもない微妙なつながりの中で、多くの人との関係の中で、そしてわたしの思いや意図を超えたところで、わたしの人生は不思議に作り上げられていくのだなと思います。
神さまとのつながりもまた微妙でよくわからないのですが、つながっていないようでいて神さまがわたしたちをつなぎとめてくださっているらしいのです。
これからの榛名の教会での出会いの中で、どのようなつながりが目に見えてくるのか、それを楽しみにしたいと思います。どうかよろしくお願いいたします
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